Melko

カストラートのMelkoのネタバレレビュー・内容・結末

カストラート(1994年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

アマデウスや覇王別姫の展開や印象を期待して見始めたが、良くも悪くも肩透かし。
とゆうか想像の斜め上を飛んできた。

オペラ素人のわたしでも、名前は知ってるファリネッリ。
そんなファリネッリ=カストラート(去勢された)カルロと兄リカルドの物語。
食べるものも住むところも、恋した女もシェアする狂気の兄弟。

基本的に2人ともお気楽な性格なのだけど、徐々に、
弟の才能に嫉妬する凡庸な兄
兄の作る凡庸な曲から抜け出せない弟
の、愛憎劇が展開していく。

「弟の声を活かすために曲を書いてる」と自負する兄は、「声に合わせようとして装飾音が多すぎる。純粋な音楽を作って」と弟にバカにされ、
「ヘンデルの曲を歌ってみたい」と自分の可能性を信じて羽ばたきたい弟は、「このカストラート(去勢者)が!」と兄になじられる。
どっちもどっちだが、兄弟で歩んできた人生と音楽キャリア、2人にしか分からない世界があるのだろう。

女性ソプラノと男性テノールの音声を合わせたらしい歌唱シーンは、やや違和感はあるものの口の動きはほぼそのままで、中盤以降は引き込まれる。
周囲を信じずどこか心虚なカルロが唯一心を開きまっすぐ接した、身体にハンデのある少年ベネディクト。ブーイングの向かい風の中舞台に立つカルロに唯1人、拍手を送る。まっすぐな瞳で聞くベネディクト。そんな少年に、舞台から白い鳩を飛ばすカルロ。ベネディクトの指に止まる鳩。見つめるカルロの瞳は、「体は不自由でも、魂は自由であってほしい」と願うような。
人工的な処置によって不滅の声を得ても、心と体の不自由さを抱えるカルロからの切ない眼差し。
そして、宿敵ヘンデルが客席から見下ろす中での渾身の一曲。兄弟を散々バカにしてきたヘンデルへ、魂を込め歌ったカルロの熱のこもる瞳。歌に殺されるヘンデル。

自分の罪と向き合った上で、また弟と作品を作りたい兄と、突き放す弟。
すったもんだの末に仲直り、そしてラスト、驚愕の共同作業。
不自由な弟の体の代わりに兄が…
覚悟を決めた女は身を任せる。

やっと普通の男性としてのステージに立てた弟、去る兄。
特殊すぎる兄弟の話。

カルロの、顔はあまり好みでなかったが、背面ショットからの裸体が、何とも美しく。
Melko

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