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大統領の陰謀のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

大統領の陰謀(1976年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

入社してまだ日が浅いワシントン・ポスト紙の社会部記者ボブは、社会部長のハワードから、民主党本部における不法侵入事件の法廷取材を命じられる。窃盗目的と思われた容疑者たちの多額の所持金、無線機や35ミリカメラ等の不可思議な所持品、さらに共和党の弁護士が傍聴しているのもボブは不自然さを覚える…。

ニクソン大統領を失脚させるに至った「ウォーターゲート事件」の真相を暴いたふたりの新聞記者の活躍を克明につづった社会派エンタテインメントの傑作。

アカデミー脚色賞を受賞した本作だが、その勝因は、製作がニクソン大統領辞任のわずか2年後と実にタイムリーであった点は大きい。
街並みもファッションも小道具も、当然ながら事件も人物像も、当時の空気をそのままに感じることができる。

全編に渡ってスリルたっぷり。
根気良く調査を続ける二人の姿と少しずつ事件の概要が判明して行く様はドキュメンタリー・タッチを越えて、政治を題材とした探偵映画と言って良いほど面白い。

事件を追う若手記者二人の記者魂とも言うべき情熱がストーリーの大きな柱。
若きダスティン・ホフマンとロバート・レッドフォードという当時の煌めく主演級の2人の意外な組み合わせ。
有能感が少々鼻につく新米記者ボブ(レッドフォード)に、16才から新聞社に携わっている自称ベテランのやや自信過剰なカール(ホフマン)が賛同して織りなす。
喧嘩もすれど、真実を暴くという一つの目的に向かうコンビネーションの小気味良さはバディ感たっぷり。
ミスを主幹にどやされ、がっくりくる二人は本当に若く、ストーリーと関係ないところが実に感慨深い。

そして、大統領や政府高官を相手どるネタの重さに他社が次々と降りる中、さらに味わい深くしているのがポスト紙の主幹、ベン・ブラッドリー。
血気に逸る若手らに「まだネタとして弱い」とベテランの厳しいダメ出しを食らわせ続け、しかし敵の反攻に遭った時は「彼らを見捨てるな」と彼らを援護し、共に進むよう社内幹部にゲキを飛ばし、新聞社としての立場を鮮明にする。

これぞ組織のトップのあるべき姿。
素晴らしいリーダーシップと後続育成の姿に、組織とは、国とは、どうあるべきか?という組織論も垣間見える。
演じたジェイソン・ロバーズも度量の大きさを感じさせ、納得のオスカー受賞だ。

事件の真相は何なのか?
謎の情報提供者ディープ・スロートとは誰なのか?
推測やガセネタ、妨害工作が飛び交う中で、若く熱血な男たちが真実を追究する姿に熱くなる。
見終わった後、今の社会が失ってしまった正義のための勇気ある行動、信じられる上司や会社への忠誠心、そして真実の探求とは、なんと凛々しく美しいものだったことかに気付かされる。

個人的にはダスティン・ホフマン演じる記者の取材が個人的にツボ。
不確実な情報を相手にぶつけて、その反応で嘘か真実かを判断する。
「うなづくだけでいい」とか「10数えるまでに電話を切れ」など、盗聴を恐れる本人の負担を軽減させる配慮だろう。
人間の良心を上手く突いてくる取材だ。
こんな熱血記者が家に来られたら、自分の身が危なくなるのに、情に絆されて喋ってしまうかも。

本作は、「ウォーターゲート事件」について駆け足で描いて行くため、なかなか事件の経緯・実像が分かり難いというのが正直な感想。
事前に事件を学習してから見ることをオススメする。

しかし、学習してなくとも、何だか国全体を巻き込む、政治の裏側で何かが暗躍するヤバさは充分に伝わる。
名前は出てくるものの、敢えて黒幕や妨害工作を行う者はほとんど登場させていないのに関わらずだ。

困難に立ち向かうジャーナリストの姿を伝える事に的を絞った映画でもあるので、事件の背景など全て分からなくとも、身の危険を感じながらも重い口を開いていく証言者や事件の究明に挑むジャーナリスト達の熱き人間ドラマとして充分に見応えのある映画となっている。
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