lycanthrope

モンテーニュ通りのカフェのlycanthropeのネタバレレビュー・内容・結末

モンテーニュ通りのカフェ(2006年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

あるきっかけで出会った人々が、互いに影響を与え合い、それまでの生活にはなかった「気付き」を得るという、構成自体はよくある映画。評者は個人的にはこういう物語はあまり好きではない。人生に課題を抱えた者同士が偶然にも一堂に会していい影響を与え合う、なんて普通に考えてそうそうある話でもないだろうし、そもそも閉じた空間での話なのでどうしても世界観が狭くなる。そんな些細な出来事で今までの人生観ひっくり返すようなことしてええんかい、とかえって登場人物が心配になってくることも度々だ。
この作品は、エンターテイメント性は低いが、そういったフィクションらしいわざとらしさが少ないので気に入っている。登場人物のいずれも人生の転機にさしかかってはいるが、お互いにそれほど強い影響を与え合うわけではない。ほんのわずかにお互いの人生観の一端に触れるという程度で、それがかえって好印象だ。中には最初から最後まで全くキャラクターが変わらない(懲りない?)人物もいる。主人公のみちょっとしたロマンスがあるが、それ以外の登場人物については本当に些細だけれどもそれまでの生活にはなかった“生活の彩り”のようなものを得るだけだ。そこからドラマが始まるわけでもなく最終的にまた各々の生活に戻っていく。ドラマを期待している人にとっては触れ合いそうで触れ合わない登場人物達の距離感にもどかしさを感じるだろうが、評者は逆にこの点の見せ方が非常に上手いと感じた。登場人物達の物語を俯瞰して見る内に、自分自身の失った過去の可能性や、今まで出会いそして別れた人々について考えさせられてしまう。今でも日常の中で登場人物達が演じるようなささやかな転機を見落としているのではないか、とそんな気分になってくる。「人生ってそんなに簡単なもんじゃないの」というようなシニカルで、それでいてどこか前向きなメッセージ性を感じる作品だったと思う。
ただ、先述の通り本当にエンターテイメント性は低い。人物描写は簡潔で無駄がないが裏を返せばやや描写不足。例えばカフェで働く主人公にしても前半はただの狂言回しでほぼ空気だが、後半になって突如「自分は一生懸命働いてきたのに何の配慮もしてくれなかった」とカフェのオーナーに食って掛かる。主人公自体の描写が少なく、あっても勝手気ままに振る舞っているので正直なぜその行動に至ったのか見ていてもはっきりわからない。この点は他の登場人物についても同じでそれぞれの抱える思いはそれとなくほのめかされる程度なので、中には突拍子のない行動をとっているように見える人物もいる。そこまで気になるほどでもないのだが、少し描写が足りないようにも感じる。
lycanthrope

lycanthrope