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悪魔とダニエル・ジョンストンのmasayaanのレビュー・感想・評価

4.2
「カート・コバーンが来ていた、あのTシャツの人」と言えば、どれほど音楽に興味がない人でもぴんと来るだろう。あるいは、80年代後半以降から今日までの、アメリカのポップ・ミュージックを愛する人であれば、お気に入りのバンドだけで固めた筈のCDラックの中にも、彼の曲を原曲とするカバー曲がそこかしこに収められていることに気付くだろう。

彼のことを奇人・変人と呼ぶのはおそらく間違っていて、端的に病人である。実際、このドキュメンタリー映画に収められているのは、妄想・偏執などの重い精神病に長年苦しめられ、家族や友人たちを幾度となく裏切りながらもどうにか今日まで生きながらえている男の姿である(劇中では躁うつ病とされるが、偏執的な悪魔妄想はもっと重い病気にも思える)。

かつてのドラッグが、今は安定剤?などに変わり、そのせいか体重もどんどん増えているように見えるが、それでも彼はまだ音楽に生かされている。果たして音楽は、彼のことを救ったのだろうか? それとも地獄へ突き落したのだろうか? おそらくはそのどちらでもあり、そうであるがゆえに、人はまた音楽やアートを愛さずにはいられないのだろう。彼の代名詞でもある「Hi, how are you?」が、どのような状況で誰に対して向けられた言葉なのかを知れて、(文字通り)泣けた。
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