藪雄祐

戦争のはらわたの藪雄祐のレビュー・感想・評価

戦争のはらわた(1977年製作の映画)
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男たちの叫びが戦場に響く、だがその声は爆音と降り注ぐ血肉によりかき消されていく…DVDではなく劇場で本作を再見。改めて編集の巧みさ、戦闘シーンの凄まじさに、それ以上に丁寧な人間ドラマの深みに胸打たれる。

その邦題に対し、ホラー的な残酷描写を求めるとすれば、それは間違いだろう。本作のその原題は「Cross of Iron」。初見の人は、冒頭から流れるあの曲に対して驚くにちがいない。

ときは第二次世界大戦も後半、ソ連進攻に失敗し広大なるロシアの地を敗走するドイツ軍。主人公のシュタイナー曹長はドイツ軍人にとって最高の栄誉"鉄十字勲章"を持つ優秀な兵士でありながら、上官に反抗的な人物。彼は貴族出身ゆえに鉄十字勲章に執着するシュトランスキー大尉と対立を深めていく。
そんな二人を中心に、ドイツ軍の兵士たちを主役としながらも、至るところ…寧ろ露骨にヒトラーへの批判を表現している。お互いのバックボーンがうっすらと分かる二人の会話シーンもさることながら、映画序盤の塹壕内でヒトラー写真が落ちるところ、野戦病院での将校の慰問、性行為を強要し悲惨な最期を遂げるSS出身の兵士などがそうといえる。
戦争の英雄でありながら反抗的なシュタイナーもまた、戦争に心を囚われた哀しき狂気の人物。主演を務めたジェームズ・コバーンの演技、その表情にはぜひ注目。とくにラストにおける笑いは薄ら寒さを感じるほどだった…。
藪雄祐

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