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The Beloved(英題)
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『The Beloved(英題)』に投稿された感想・評価

["互いに目を合わせることができない人々を描いた物語"] 40点

2026年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。ロドリゴ・ソロゴイェン長編七作目。今年のコンペは大御所アルモドバル、中堅ソロゴイェン(初選出)、新人カルボ=アンブロッシ(初選出)が並ぶというスペイン映画界の継承のような年だったわけだが、初選出となった二人がそれぞれアルモドバル新作『Bitter Christmas』とキャストが被っているというのも面白い。本作品の主演ビクトリア・ルエンゴは『Bitter Christmas』でも主演として登場している。物語は、世界的映画監督エステバン・マルティネスが13年ぶりに娘エミリアに再会する場面から始まる。長らくNYで活動してきた彼が、スペインで新作を撮ろうとしており、それに女優であるエミリアを出演させたいと思ったからだ。20分近く続く冒頭の会話は、卓球のラリーのような矢継ぎ早の切り返しのみで構成されており、徐々に和やかな雰囲気から徐々に不穏なものに転落していき、エステバンは昔のように不機嫌になって主導権を奪おうとするが、エミリアは既にそれを跳ね返す力を付けたことが分かる。新作のテーマは1930年代の西サハラにおけるスペイン人を描きながら、"裏切りと見捨てられること"について、互いに目を合わせることができない人々を描いた物語だ、としている。やがて、撮影が始まり、エミリアもそこに参加することになる…云々。あらすじが紹介された瞬間から『センチメンタル・バリュー』の二番煎じ(時期的に感化されて作ったわけではなさそうだが)と言われていたが、まさか舞台が西サハラになるとは思わなかった。そのうち、前年のコンペ作品の全要素を含んだ作品が登場するかもしれない。閑話休題、本作品と『センチメンタル・バリュー』の大きな違いは、映画撮影そのものにスポットを当てていることか。同作では撮影前に蟠りはある程度融解しており、撮影に参加すること自体が過去と向き合うことを意味していた。本作品では冒頭の会話の直後に撮影に参加しており、その中で強権的に振る舞う監督としてのエステバンと過去の父親としてのエステバンを重ねる形になっている(そこにスペインと西サハラの現地民サハラウィの関係も重ねられているのか?)。それがどれほど効果的かは微妙なところで、映画撮影映画にありがちな要素をてんこ盛りにした上に、親子関係まで乗せる欲張りっぷりのせいで、底が抜けているように見えた。エステバンとしては、劇中で引用されるリヴ・ウルマンの"カメラに近付くほど、仮面を脱がなければならない"という言葉を実践させることで、再びつながりあえることを期待していたのかもしれないが、そもそも演技の上手くないエミリアが短期間でその境地に達することが出来るはずもなく、癇癪持ちのエステバンがその過程に耐えられるほど穏やかでもなく、単に家族喧嘩を職場に持ち込んだだけになってしまっているのだ。物語が単調で既視感に溢れているためか、映像でテンポを作り出そうと、意味もなくモノクロにしたり画郭を変えてみたりしているが、寧ろノイズになってしまっている。

目を合わせられない人がカメラを挟んで向かい合う、という不器用さはフランチシェク・ヴラーチル『Serpent's Poison』を思い出した。アル中の父親を訪ねる娘の物語であり、娘は正面からカメラに向く瞬間が何度かあるが、父親は正面に向くことはおろか正面から捉えられることすらない。これには、ヴラーチルが娘(的なもの、彼に娘がいたかは知らない)を目を合わせるためにカメラを覗き込んでいるような、不出来なことを自覚した父親の業みたいなものを感じさせる凄まじい傑作だ。そういうのと比べてしまうと、本作品でそのような瞬間はないのだ。せっかく映画にするなら視覚的にも見せてくれよな。

おそらく、本作品が『センチメンタル・バリュー』になり得なかったのは、ひとえに"妹の存在"がないことにあるだろう。同じ体験をしながら違う視点を持つ人物が、問題を客観視する余裕を与えてくれるのだ。
3.8
The Beloved 2026年作品
El ser querido/The Beloved
7.5/10
ロドリゴ・ソロゴイェン監督脚本
ハビエル・バルデム ヴィッキー・ルエンゴ
ラウール・アレバロ マリナ・フォイス
 天才肌だが問題児の映画監督エステバン(バルデム)。
かつて家族を捨てて、アメリカに渡ったが、今回故郷
スペインに帰り、無名の若手女優である娘を主演に
映画を撮ろうとする。
「理想郷」のソロゴイェンによる、父娘の濃厚なドラマ。
父親兼監督が、10歳の時に別れて会っていない娘エミリア
(ルエンゴ)に対して、お前にぴったりだからと
欲望を解放する役柄を用意するという危険球を冒頭から投げて、
「センチメンタル・バリュー」と
構造は同じなのに、この熱量の違いに驚く。
 まともなことを言っているようで、結論がどこか
狂っている監督に対して、娘も父親として接するのか、
女優、監督として接するのかの境界も怪しい状態。
 しかし、エステバンが娘に父親としてのアドバイスをし、
それを拒否してからの撮影が地獄絵図になり、観ている
こちらはハラハラしっぱなし。
 また、映画表現として監督女優のプロフェッショナルな
シーンはカラーで、父娘の個人的な感情を示すときは
モノクロになっていて、父娘の関係がすでに過去のものに
なっているようにも感じられる
 ラストの二人の表情が印象的で完成度は高かった。
おすすめ。