カラン

ロアーのカランのレビュー・感想・評価

ロアー(1981年製作の映画)
4.0
アフリカにやって来た自然学者が、ライオンやトラやヒョウやジャガーを家の周りと、家の中にまでうじゃうじゃ住まわせて密猟から保護している話。「ロアー」というのはroar、唸り声のこと。


☆凄いところ!

①VFXじゃない。

②調教と訓練を受けた動物ではなく、マーシャル一家がカルフォルニアのセットで飼っていて、馴染んだ動物たちである。

③ちと古い話をするが、大山倍達の弟子のウィリー・ウィリアムズvs熊にでてくるグリズリーのように牙や爪を切除されているインチキではなく、ホンモノの猛獣である。

④そういう猛獣が合計150頭出てくるし、映画の大部分で何十頭いるのか分からないくらいにたくさん映っている。生き物なので、病気になって死んでしまったりと自然な増減はあったようだが、増えもする。1972年頃にはサーカスや保護施設から貰い受けて(無許可で)飼っていたのはライオンの子供数匹であったのが、タンザニア風のセットを作成でき、大量の大型動物を囲い込める土地を購入して、撮影を始めた。1979年頃までにライオン71、トラ26、タイゴン1、ブラックパンサー9、クーガー10、ジャガー2、ヒョウ4、ゾウ2、黒鳥6、カナダグース4、ツル4、クジャク2、フラミンゴ7、コウノトリ1となっていた模様。

⑤極めて近接し、牙を出して「ごわぁー」と唸っているやつらの牙が手に重なって、手から血が溢れていたり、ぶっとい腕が頭にかかって頭髪が赤く滲んでいたりするような距離感で撮影する。撮影は『スピード』(1994)や『ツイスター』(1996)を監督したヤン・デ・ボンである。複数のパナビジョンの35mmカメラを設置して、訓練を受けていない動物たちを粘り強く撮影したが、彼も頭をまるかじりされて病院送りなっている。

⑥数匹じゃない。うじゃうじゃ、画面からはち切れてしまう数で、重なりあって、おもいおもいの運動をしている。感動的である。


☆ある家族

だから、映画の撮影班は常時病院送りになる負傷をおいながら、この映画を撮影したらしい。VFXではありえない極めて自然な猛獣が溢れかえっており、ヤラセではありえない独特の緊張に満ちている。この映画の脚本と監督はノエル・マーシャルという映画プロデューサー。製作はティッピー・ヘドレンと共同した。この2人は夫婦である。そしてこの夫婦は映画に主演している。

そして、ジェリーはジェリー・マーシャルが、ジョンはジョン・マーシャルが、メラニーはメラニー・グリフィスが演じている。メラニー・グリフィスはティッピー・ヘドレンの連れ子なので、要するに家族で撮ったのである。

1969年、妻の映画撮影でモザンビークにいた時、密猟から逃げてきたライオンの群が空家に隠れたのを観て、映画にしようと。翌1970年、夫が脚本を完成。それから10年かけて撮影した。会社は倒産し、資金繰りに苦労して、妻は『鳥』(1963)の際にヒッチコックからもらったという毛皮のコートを売ったりもしたという。持ち物の全てを賭けて、手も足も脇腹も頭ですらも、家族全員穴だらけになりながら映画を撮影した。経費を抑えるために、裏方に任せるようなことを自分でやるはめにもなった。

映画は1700万ドルかけて、200万ドルの売り上げだった。夫婦は映画公開の翌年に離婚した。


☆凄くないところ

アクションの趣旨が同じ。ひたすら池に落ちるだけ。あるいは、「へーい、元気だねー」っていいながら、唸り声をあげて喧嘩しているライオンの巨大なあごの下を触れては、群の中を抜けていくとき、腰が抜けており、早口で喋る。だから怖い。プロじゃないのが分かるから、怖い。つまり、素人が明らかに危険な行為をしているから怖いのである。

ティッピー・ヘドレンの顔にハチミツを塗ってライオンが顔を舐めるシーンの撮影は、生きた心地がしなかったという。なぜなら、舐めさせる撮影に成功はしたが、顔にへばりつくのをやめさせることができなかったからだろう。

いかにもなカルトムービーであった。


レンタルDVD。55円宅配GEO、18分の7。
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