カラン

イノセンツのカランのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
4.0
ノルウェーの団地の子供たちが感応し合い、大人には分からないが、犬は感じる不思議な力を発揮して、、、殺し合う。ヨアキム・トリアーとタッグを組むことが多かったエスキル・フォクトのサイコ・スリラー。

☆撮影

おそらく35mm用のフィルム撮影をしていると思われるが、ヨアキム・トリアーが組んできた撮影監督ではない。シュトゥルラ・ブラント・グロヴレン(Sturla Brandth Grøvlen)という方を起用した。この方はトマス・ヴィンダーベアの『アナザーラウンド』(2020)を撮った人。ヨアキム・トリアーは『母の残像』(2015)と『わたしは最悪』(2021)を35mmで撮っている。『テルマ』(2017)はデジタルであった。ヨアキム・トリアーと組んだ撮影監督とやるべきだったのかもしれない。本作の画面は少しくすんでいるように見える。

☆特権的な瞬間

VFXも頑張って作っている。しかし、足下の砂利が浮遊したり、鍋のふたが跳ねたり、ブランコの鉄パイプがたわんだりという程度なので、精巧ではあるし、それが重要な技術だが、ヨアキム・トリアーが映画的に確立する特権的なショットにはならない。『母の残像』では無数のガラス片をイザベル・ユペールに高速撮影でやったかのように降り注ぐフラッシュバックで時を止めていた。『わたしは最悪』は、『フローズンタイム』(2006)をパクったかのように時を止めたショットが有名なのだろうが、フローズンタイム以前に心的な時を停止させるショットを繰り出していたから成立していたのである。

映画という線形的に不可逆的に継起する動画に対抗して映画監督たちは様々な試みをしてきたが、エスキル・フォクトは哀しいことに無策である。能力を発揮して、池を挟んで子供たちが対峙する山場で、ただ力んだ表情で立ち尽くすのである。特権的な瞬間を映画に現出させるのは最終的にはショットであるが、その画が団地の子供らに立ちんぼさせることであるのは、脚本ではなく、監督の力量を物語る。

☆結集する子供たち

恐るべき子供たちが映画の冒頭、結集する。ラストシーンでも結集するが、上に書いたようにいまいちである。しかし冒頭は違う。妹が自閉症の姉の靴にガラス片を入れる。すると顔の色素が抜けてしまう病気の黒髪の女の子の家にジャンプ。その子は、姉妹のようにブロンドの人形の髪を梳かす。黒髪の子が靴を履くと、足に痛みが走り、血が。姉にジャンプして、姉の足から血が。黒髪の男の子にジャンプして、、、。どきどきするイントロダクションで、カットの威力が素晴らしい。エスキル・フォクトは脚本を書くことができるということの証拠だろう。 



☆4は甘いかもしれないが、またチャレンジして欲しいという期待を込めて。本作の興収はさっぱりであったようだ。この中途半端さでは仕方ないだろう。



レンタルDVD。ノルウェー語の5.1chサラウンドはなかなか良い。
カラン

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