とうじ

ネイキッドのとうじのレビュー・感想・評価

ネイキッド(1993年製作の映画)
5.0
本作は、ポール・オースターの著作(彼の小説「ムーンパレス」は人生ベスト)などに代表される、無限に広がるフィクション性の宇宙空間の中に浮遊する人物や出来事を、存在論的必然性によって結びつける、ピカレスク文学的手法を見事に「映画」という媒体に落とし込んでいる。それにさらにチャールズ・ブコウスキーの大胆さやサミュエル・ベケットの息が詰まるような諦観とユーモア、そしてサリンジャーの切実なリリシズムも感じられるのだから、文学的な映画とはまさにこの事である。
2人の暴力的な男の日常を交互に映していくのだが、この関係のなさそうな怪物達が「ゼアウィルビーブラッド」スタイルでいつか破滅的な衝突を成し遂げるのかと思いきや、皆既月食のように一瞬接近した後、また遠い空間の彼方へとやるせなくそれぞれの軌道に乗って離れていく。
理性による絶望から逃避する手段としての快楽主義の限界を、睡眠不足特有の浮遊感で見せ続ける。また、経済の中心都市(ロンドン)に生きる人々の孤独と断絶、すがるものが何も無い様を巡る荒涼とした、不健全な冒険譚にもなっている。
セリフも本当に見事で、その秀逸さは、暗く救われない本作の物語を、何度も見返したいブラックコメディへと昇華させている。英語ができてよかった。

「オムレツを作るときに卵を何個か使うだろ?そのうちの一個にすぎないのが人類なのであって、そのでかいオムレツはクッソ不味いんだよ。」
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