Laura

愛のお荷物のLauraのレビュー・感想・評価

愛のお荷物(1955年製作の映画)
3.5
さながらハワード・ホークスを思わせる抜群のテンポ感のコメディ。少子化が喫緊の課題である現代とは裏腹に、1955年に公開された本作の設定は「子供が増えすぎて困る」というもの。いわゆる第一次ベビーブームの世相をユーモラスに描いているのだ。お上に法律で止められようが水爆実験が行われようが、男と女が愛し合い子は産まれる、旧約聖書の創世記の一節に立ち戻るまでもない浮世の定理が、川島ならではの戯作者精神とドライな語り口で描かれる。高齢での妊娠や婚前交渉による受胎など、一歩間違えれば強烈に下品になりそうな世界だが、山村聰の風格と三橋達也の洗練軽妙が基調を整えている。昔の芸者女が密かに産んだ子というメロドラマにありがちな設定も、人物の心理に一切フォーカスされないおかげで湿っぽさがない。婚前妊娠や女性一人の子育てが「できちゃった婚」とか「シングルマザー」という言葉で規定されることなく、売春街はみずからをnecessary evilと主張する時代。家庭生活も性愛も要は生身の人間の営みであるというシンプルな事実で足りたこの時代に、アプリでの恋愛に四苦八苦している人間としては羨望すらおぼえる。
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