金宮さん

砂の女の金宮さんのレビュー・感想・評価

砂の女(1964年製作の映画)
4.5
不穏しかない集落で現地民の女と共に砂まみれの家屋に幽閉され、砂を掻き出すという報酬型単純労働を強制された男がどう逃げるか?

原作のアバンギャルドな雰囲気はそのままに、映像表現がとにかく研ぎ澄まされている。随所あらゆる演出によって、砂が鑑賞者に迫ってくる。

例えば作中でも重要な要素である等高線と乱雑な捺印がオープニング背景にておどろおどろしく配置され、否が応でも砂を想起されるようになっている。特に無造作な印鑑については結末を知っていると否が応でも無常感を感じてしまうアイテムなだけに、それと砂漠がドッキングしたような描写をされてしまうと効果的な劇半も相まってゾクゾクが止まらない。

思えば高校時代に背伸びして読んだ原作はクラシカルな文体も手伝ってかちんぷんかんぷんではあったが、あらためて鑑賞したこの素晴らしい映像作品によって安部公房が表現したかったことがいくらかクリアになった気がする。

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砂というつかみどころがなく、うっとうしくもあり、時にかなりの攻撃性を持つ存在と常に同居する不条理を味わってしまう主人公。物語の進行とともに、それはそのまま同居人の女や集落の俗物たちへの印象と重なってくる。

なんとかそこから抜け出したい。街に戻りたい。しかし、女の「都会って魅力的なんでしょう?」という卑屈な言葉に対して「そういうことでもない」とガンとして否定してしまうジレンマは観ている我々にとっても他人事ではない。結局、帰ったところで理不尽は存在しているのだから。

そしてついに彼は戻ることにすら興味を失い、むしろ穴ぐらに残ることを自ら選ぶ。モチベーションは下品な彼らに向けた承認欲求。なんなら都会側も姿くらました主人公の取り戻しをすぐに諦めているからこそ、そんなもんかと飲み込んで郷に従う方が気楽な気もしてしまいなんとも気持ちが悪い。解像度の低いモノクロであっても、映像演技音響によって極限まで高められた不快感が常につきまとっているいるからこそ、それはより芯に迫ってくる。

いまも存在し続ける行方知れずの人々はこんな感情になっているのだろうか。いや、そもそも行方不明の定義すらあやふやになってくる。いつどんな感情で観ればいい作品なのかよくわからないが、はるか昔に諦観表現もここまで到達していたのかとがっくし脱力してしまう、不条理表現の極致を体感した気持ち。
金宮さん

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