げ

風と共に去りぬのげのレビュー・感想・評価

風と共に去りぬ(1939年製作の映画)
3.5
原作は中学生のときに読んでからずっと大好きな作品。宝塚版は見たことがあったけど映画はこれが初めてだった。脚本の満足度は微妙。長いことスカーレットの世間での評判の悪さが不思議だったのだけど映画を見て謎が解けた。スカーレットの生き様の美しさを示すエピソードが結構削られてる。これは映画しか見ていない人は誤解するかも。確かにあの長編を3時間に収めるには仕方のないことなのかもしれないけれど、彼女の行動原理、ある種背骨のようなところががっつりカットされてるように感じ、その点は残念。一方キャストの満足度は最高!特にやはりメインの二人が素晴らしかった。ヴィヴィアン・リー、唯一無二すぎる。

まず脚本の話。前半、というかレットと結婚するまでかなり端折られている印象。(奴隷制は非人道的な制度であるという前提は踏まえて話すが)黒人に対して南部の人間が負う責任と両者の信頼関係、アトランタに行ってから大黒柱として戦禍を生き抜く姿、望んだわけでもないのに責任を果たさなければならない存在(チャールズ、フランクいずれとの子供も省略されてるのはかなり驚いた)、スエレンやプリシー他旧式のしきたりに囚われる家族や南部の人々、そしてそのあらゆるしがらみの中で彼女は懸命に足掻き「二度と飢えない。飢えさせない」という誓いを果たすべく奮闘する過程、南部人としての誇り高い気性…そういうところが彼女の美しさなのに。
物語の中でも現実の感想でもよくある批評として「自分勝手すぎ」というのがあるが、彼女が本当に自分勝手なら全部捨てて北部の人と結婚しただろう。美しい手を野良仕事で荒らして、危険を顧みず木材を売って、どうにか彼女の肩に彼女の同意もなく乗せられた命への責任を果たそうとするスカーレットは、確かに理解はされづらいかもしれないが誇り高く美しい一人の南部人だ。そしてそういう姿があるからこそメラニーとの戦友としての連帯意識、あるいは愛情が尊いものになる。スカーレットの魅力が十分に伝わらない点は脚本の構成にあると感じた。

一方キャストは先ほども書いたが最高の一言。登場したての自分の思う通りにしかことが進まないと信じきっている無邪気で高慢な表情もいいが、追い詰められたときにこそ一番の美しさを発揮するスカーレットはあまりにも本物。誰にも制御させまいとする瞳の輝き、くっと鋭くなる眉、思い描いていた以上のスカーレットだ。レットとの互いに素直になれないフェーズの伏目や何か言いたげな表情もあまりにも可愛らしいし、なんでレットはこれに気づかないのよ野暮天!!ともなる。スカーレットの一挙手一投足に魅了され、彼女の背負った重荷に心を寄せ、この3時間で何度声をあげて泣いたことか。ヴィヴィアン・リー、本当に素敵だ…。
クラーク・ゲーブルのレットももう、かっこよすぎるし可愛すぎる。悪戯っぽく輝く瞳も、皮肉に踊る端正な眉も、変に歪んだ言葉ばかり吐く口元も、本当に好き。スカーレットを愛するが故の不器用すぎるところが可愛くて大好きなのだが、そういう複雑で繊細で独自の理屈で動いてしまうような厄介さが動作の端々に現れていて、やっぱりこっちも本物だった。スカーレットの病気のシーンでメラニーに縋る情けない姿と言ったら……(好き)

上記の二点がわたしとしては大きなポイントだったが、他にも南部人のまるでミュージカルでも始まったかのような歌うような話し方、夕日に照らされるタラの美しさ、戦争が生み出した数多の死体、乾燥した赤い土、不必要に派手な衣装など実際に目にしたかったものが見れてその点での満足度はかなり高かった。原作が原点にして頂点だが、この映画だけで見た場合であればかなり好きな作品かも。

追記: 戦前の映画なのこれ!?!?!?すっご、なにそれ。人類の宝?
げ