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雨に唄えばのtakのレビュー・感想・評価

雨に唄えば(1952年製作の映画)
5.0
「繰り返し観ている映画は何?」と尋ねられたら、僕は多分「スターウォーズ」「インディ・ジョーンズ」「007」を挙げるけれど、回数で言うならばおそらく「雨に唄えば」を挙げない訳にはいかない。初めて観たのは、テレビの録画を父親が人から借りてきたのがきっかけだった。何これ、なんか楽しい。もしかしたらミュージカル映画を初めて観たのは、これだったかもしれない。水たまりを蹴散らして踊るジーン・ケリー、可憐なデビー・レイノルズ。芸達者なドナルド・オコナーに笑わされ、華麗なダンスと歌にワクワクした。

他にも夢中になったミュージカル映画はある。「ウエストサイド物語」は当時吹奏楽部でレナード・バーンスタイン作品を演奏したのもあり何度も観たし、「サウンド・オブ・ミュージック」も「メリーポピンズ」も人並みに観た。それでも「雨に唄えば」は僕にとっては別格。

それはサイレントからトーキーに映画が変わる時代の物語だから。僕が映画好きになったきっかけの一つは、親に見せられたチャップリンの作品。サイレント映画とトーキー初期にまたがるチャップリン作品群は夢中で観た。トーキー時代に敢えて台詞に頼らず、実験的な音の表現に挑んだチャップリンのエピソードを知るだけに、「雨に唄えば」で描かれるトーキー初期のトラブルやスターの栄枯盛衰の物語に、俄然興味が湧いたのは間違いない。人々を魅了するエンターテイメントの世界とその歴史をもっと知りたい 。繰り返し観るうちに、そんな気持ちになっていたのだと思うのだ。

同じ時期に「スターウォーズ」を観て、黒澤明作品を始め様々な娯楽映画の要素がルーツにあることを知る。「僕はここに込められた映画の楽しさを知り尽くしてやる!」と幼いながらに思って、今こんな大人になってしまった。レイア姫を演じたキャリー・フィッシャーのお母さんが、「雨に唄えば」のデビー・レイノルズだったというのもなんて幸せな偶然。

スタンリー・ドーネン監督作は、「雨に唄えば」以外にもお気に入りの映画がある。美男美女のサスペンスにオシャレな音楽の「シャレード」、とっても不謹慎なテーマなのに抜群に楽しいミュージカル「掠奪された七人の花嫁」、オシャレでロマンティックな傑作「パリの恋人」。ドーネン監督は2019年2月に亡くなった。他にも楽しい映画はあまたあるけれど、今にして思えば、僕はドーネン監督作から映画の楽しさを学んだ気がする。大学時代にリバイバルで観たオードリー・ヘプバーンの「いつも二人で」は、倦怠期の夫婦のお話だけど、今の年齢で観たらあの頃分からなかったものが見えるのかもしれない。映画の楽しさを教えてくれてありがとう、監督。
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