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親密すぎるうちあけ話のtakのネタバレレビュー・内容・結末

親密すぎるうちあけ話(2004年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

パトリス・ルコントの映画には様々な魅力があるが、持ち味が発揮されるのはおっさんの片恋だと思う。それも綺麗じゃなくて、かなり歪(いびつ)な恋愛のかたち。理髪店で美しい妻を愛でる亭主、窓から美女を覗く男、女性の幸せの為なら自分の思いを殺せる男…などなど。世間では気味悪いのひと言で括られそうな男たちだが、スクリーンで彼らの気持ちと向き合うと、不思議と切なくなってくる。自分も片恋に焦がれているようなw

久々にそんなルコント映画が観たくなって、宅配DVDレンタルでまだ観てなかった本作をチョイス。

話を聞いてくれる誰かが欲しい。解決や結論を求めているわけじゃない。だから大切な人の話はちゃんと聞こう、と世の旦那に呼びかけるネット記事をよく目にするけれど、これはそういう話でもあるw

同じ階の精神科医と間違えて税理士ウィリアムの部屋を訪れたアンナ。夫と不仲になっていることを喋り始める彼女と、離婚がらみの税相談だと思って聴き続けた彼。次の訪問を一方的に決めて去った彼女に、精神科医ではないと言いそびれた彼。ほんとは税理士だと告げられて、最初は怒ったアンナだったが、いつしか彼女にとってウィリアムは他にはない"話し相手"となっていく。しかしアンナの夫が、ウィリアムにつきまとうようになって、事態はこじれ始める。

誰かのプライバシーを覗き見することは、誰もがドキドキしてしまう。ヒッチコックのサスペンス映画から市原悦子の家政婦ドラマまで、主人公だけでなく観ている僕らも覗き魔の一人にされ、巻き込まれてしまう。ちょっと変態、ちょっと偏執。

本作はルコント先生による、一種の巻き込まれサスペンス。ヒッチコック風に言えば、税理士ウィリアムは殺人を告白される「私は告白する」の神父、私生活を覗いてしまう「裏窓」のカメラマン、突然現れた女性に「めまい」のようにドギマギして、「北北西に進路をとれ」のように巻き込まれてしまう。そしていつしか彼女を愛し始めてしまう。

だが、本作は単なる片恋ドラマに終わらない。アンナの夫の問いかけにウィリアムは愛情を口にしてしまう。それは彼女をかばうためか、それとも思わず出てしまった本音なのか。アンナの夫が、夫婦で抱き合う姿を窓越しに見せつける場面。ウィリアムの表情にあるのは、アンナが元鞘に収まった安堵ではない。それはもっと胸を焦がすものだったに違いない。元妻が付き合っている今の相手が気に入らなくて、複雑な心境になる姿も面白い。


※以下、結末に触れています。
おっさんの片恋ルコント映画はビターな後味が多いのに、本作は違った結末が待っている。それは他の作品にはないもので、未来を感じさせる素敵なもの。エンドクレジットが素晴らしく、カウチに寝そべっているアンナのすぐそばで話を聞くウィリアムの姿が、ブライアン・デ・パルマの映画みたいに俯瞰で映される(覗きの目線!?)。それは映画の冒頭には机を挟んで距離を置いていた二人に起こった大きな変化。それを見届けた僕らは、これまでのルコント映画に感じたことのない幸福感を味わう。

好きだ、これ。
DVD返しちゃったけど、また観たい!
tak

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