Omizu

カミュなんて知らないのOmizuのレビュー・感想・評価

カミュなんて知らない(2005年製作の映画)
5.0
【2006年キネマ旬報日本映画ベストテン 第10位】
『さらば愛しき大地』柳町光男監督作で、2000年に実際に起こった豊川市主婦殺人事件をベースにしている。柳町監督10年ぶり(ドラマ映画としては12年ぶり)の作品で、現状の最新作。第58回カンヌ映画祭監督週間に出品された。

冒頭7分近くのワンカット長回しでまず掴まれる。豊川市主婦殺人事件を題材にした映画、をつくる大学の映画ワークショップという二重構造になっている。全体に非常に演劇っぽいセリフ回しではあるが、その構造ゆえにあまり気にならない。

大学生の日常を描いてはいて淡々とした描写ではあるが、その実内容はなかなかにダーク。こんな人いるよね、と思いつつも起こることはけっこうえげつない。

文学的要素、そしてシネフィル要素を多く含む。カミュ、ゴダール、ラング・、レオーネ…

そうした知的でダークな描写が積み重なり、現実とつくっている映画内の惨事がリンクする。冒頭とラストで全く異なるが引き込まれる特殊な見せ方をしていてとても上手い。

ジャケットの「人間って簡単に死なないんだ」というのはあまり重要なセリフではなくて、「試してみたい」という欲求についての映画。突き落としてみたい、浮気してみたい、殺してみたい、そういった人間の抑えきれない本能について描いている。

不思議と引き込まれる作劇が非常に上手く、淡々としていつつも一つ一つのセリフや行動、撮り方がとにかく興味深くて目が離せなかった。柳町監督作品はこれが初めてだけどかなり好き。日本映画という大枠の中でもベストに入るレベルで面白かった。
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