櫻イミト

周遊する蒸気船の櫻イミトのレビュー・感想・評価

周遊する蒸気船(1935年製作の映画)
4.0
1930年代アメリカのスタータレント、ウィル・ロジャースとジョン・フォード監督による3部作の最終作。ロジャースは本作直後に飛行機事故で急逝し遺作となった。

19世紀末のミシシッピ河。ドク(ウィル・ロジャース)は金を貯め中古の蒸気船を購入した。甥っ子デュークと一緒に運用する計画だったが、なんとデュークが殺人容疑で逮捕され縛り首を申し渡される。無実を証明するには目撃者のニュー・モーセを探さなければならず、ドクはデュークの許嫁ベルと奔走するのだが。。。

蒸気船と言う大仕掛けを用いたコメディ活劇でとても面白かった。「ドクター・ブル」「プリースト判事」とヒューマン・ドラマを追求してきたロジャース&フォード監督だが、本作では肩の力が抜けてのびのびと作っている印象。結果的に、笑いながら人情味を楽しめるヒューマンな良作になったと思う。蝋人形館を攻めに来た村人が、初めて見る人形たちを前に素直に感動する、その描写にフォード監督の庶民への慈しみが感じられた。

個人的に笑いのツボだったのが“ニュー・モーセ”。その間抜けなネーミングから面白く、蒸気船に水中を引きずられる姿には声を出して笑ってしまった。「試練の炎に焼かれよ」と叫びながら蝋人形を次々に釜にくべるのも可笑しかった。

ドクのライバル、イーライ船長を演じたアーヴィン・S・コッブは「プリースト判事」の原作者であり、ウィル・ロジャースの盟友だった人物。ロジャースの遺作となってしまったのは残念なことだが、最後に本作のような素敵な作品を残せたのは幸いだったと思う。
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