櫻イミト

シー・キルド・イン・エクスタシーの櫻イミトのレビュー・感想・評価

3.8
傑作「ヴァンピロス・レスポス」のジェス・フランコ監督&ソリダッド・ミランダのコンビが、同時期に並行して撮影したエロティック復讐劇。オシャレな劇判も同作と同じマンフレッド・ヒュブラー&ジークフリード・ヒュラブ。原題は

スペイン・マルドリッド。ガン予防の研究をしていたジョンソン博士は、特殊なホルモンによる研究レポートを医療審査会に提出した。しかし人間の胎児を使用したその研究は非難の的になり、彼は医学界から追放されてしまった。思い悩んだジョンソン博士は、新婚の妻を遺して自殺。妻は夫を追い詰めた人間を恨み復讐を始める。。。

閣下殿のご紹介で鑑賞。

フランコ監督の選ぶロケーションと劇判が相変わらず抜群に好みだった。オープニングに映る胎児のホルマリン漬けは新機軸。

シナリオは先日観たばかりのトリュフォー監督「黒衣の花嫁」(1968)と良くも悪しくも似ていて、夫を亡くした新妻による色仕掛けも厭わない連続復讐殺人の完結までを、ひねりなくストレートに描いている。

もうひとつの共通点は“女優映画”であること。同作はジャンヌ・モローを、本作はミランダをフィーチャーするための映画だったと言える。同じ新妻役として比べたら当時40歳のモローよりも26歳のミランダの方が自然なのは言うまでもない。

ミランダ史上、最もファッショナブルな七変化も見どころ。劇判がアニメ「キューティー・ハニー」(1973)と似ていて、復讐譚なのにオシャレでポップなのがユニーク。一方、復讐のとどめの瞬間に目を見開くミランダの表情は、長い黒髪も相まって「女囚さそり」シリーズ(1972~)の梶芽衣子を連想した。本作は日本未公開だったので東映ピンキー・ヴァイオレンス路線に直接影響を及ぼしたのかは定かではないが、ミランダの脱ぎっぷりの良さと情念の発露は同路線の先駆であり理想形と言える。

フランコ監督の前衛趣味が抑えられた大衆向けの一本。ただ、主人公が復讐を決意する際に洋上のボートで一人たたずむ姿は、ベックリンの絵画「死の島」の引用だと思われる。終盤、復讐を成し遂げた主人公は再び海に向かいながら「私たちは死で結ばれる」とつぶやく。これで引用は完結し、性と恍惚と死の物語が終幕する。理想を言えば、ラストに海から陸に向けたロングショットが入れば引用としても映画としてもベターだったが、劣悪な予算状況では叶わなかったのかもしれない。
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