ヘソの曲り角

周遊する蒸気船のヘソの曲り角のレビュー・感想・評価

周遊する蒸気船(1935年製作の映画)
3.7
こんなにイカれた映画はそうない。ジョン・フォードってこれとか「タバコロード」とかたまに気がふれたような映画を作る。これぞまさしく終わり良ければ全て良し映画(勢いだけで突き抜けたエンディング)。

フォード、馬の撮り方と蒸気船の撮り方が同じ。レースシーンの臨場感がすごい。あと普通敵サイドがやりそうなズルを主人公がやってて唖然とした。蒸気船が画面を埋め尽くすほど並んで大勢の人が乗ってるという画面の圧は半端じゃないが、なんとなくこれにまんまと感動させられたくないような気もした。

話は正当防衛で人殺しちゃった息子を自首させたら首吊りたがり判事のせいで死刑判決を受けてしまったので、弁護士を雇う資金を稼いだり唯一の目撃者のモーゼのコスプレエセ宣教師を探したりするドタバタ劇。見ててポール・シュレイダー作品を思い出した。目的からは一回もブレてないのに手段がどんどん逸脱していく、なのにちゃんと着地はする。それと宗教色の強さ。酒映画でもあった。前半は出身地差別と女性蔑視のオンパレード。ヒロインの存在感がどんどん希薄になり最終的にすべてを火に焚べる運動へと集約される。しれっと結婚式もある。とにかくお祭り騒ぎな映画だった。これはたぶん家で見るよりヴェーラで見たほうが楽しかったと思う。

意外と南部映画でもある。黒人がけっこう出てくる。ていうかWW2前の映画見てると黒人それなりに出てくるからどっかで断絶があったのがよく分かる。50年代。まあ描かれ方はアホっぽくて可哀想だけど。

前年にフランスのジャン・ヴィゴ「アタラント号」があるので船映画ブームが来てたのかもしれない。