人類ほかほか計画

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ&アメリカ/天地風雲の人類ほかほか計画のレビュー・感想・評価

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シリーズ最高の製作費らしい……。
6作目にして、リンチェイ主演ワンチャイとしては4本目で最後(リンチェイ弁髪サーガ的な見方でいっても集大成的な『スピリット』をかなり後で作るまでの一旦の最後)。
一見イロモノっぽく思えるが、ブルース・リー映画が『ドラゴン危機一発』や『ドラゴンへの道』で特に描いていたようなディアスポラ的主題を最大限に引き受けているという意味ではカンフーものの王道も王道。
西洋(ひいてアメリカ)の存在なくして東洋もなし。
アメリカへの移民という話題は既に1作目から描かれていたし。
カンフー映画にとってどう扱うかが大きな問題である銃の本場に文字通り踏み込むということでもある(超絶眩惑テクニックで銃弾をかわすフェイフォンはそれはそれとして、素早い蹴り技の応用で足に銃弾を受けることで致命傷を回避する鬼脚が、痛ましくもたくましい)。
さらにいうとブルース・リー原案の西部カンフー劇『燃えよカンフー』(ブルース・リーの主演は叶わなかったがこのワーナーによるテレビドラマのヒットがなかったら『キング・ボクサー/大逆転』全米公開からの『燃えよドラゴン』製作に続く全世界的カンフーブームもなかった)への回帰ともとれる。
ワンチャイシリーズは1作目が地元の宝芝林で一門を構えている様子が描かれていてシチュエーション的にいちばん良かったが2と3は三人組で出かけた先々での話になってそこに少々こぢんまり感があった。今回もそうだけど外国にまで出ることで上記のような大きな主題を獲得しているといえる。
今回お供がフーじゃなくて3作目から出た鬼脚ことチャドになってるがあまりにもお笑い芸人のあばれる君を彷彿とさせる、どうでもいいけど。
イーおばたんは以前よりちょこちょこカンフー使うようになって強くなってて良い。
衣装、美術、照明等ビジュアル要素は『ヤングガン』シリーズや『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』『ワイアット・アープ』など同時代のアメリカ製西部劇のトレンド水準に届いているリアリティ。これは偉い。めっちゃ頑張ってる。
『デッドマン』もたぶん意識している。
アメリカでの中国人への差別偏見を描いているわりにはインディアンの描写がめちゃくちゃぞんざい。
アクションのカット割は少々細かすぎ寄りすぎの感がある。
訪れた英雄ウォン・フェイフォンのありがたいお説教を聴けるというそのことが嬉しくて説教の内容自体は眠たいのに幸せそうに微睡む移民たちのシーンが白眉。
メイキングでのサモハン組の現場の様子が素晴らしかった。イーストウッドやたけしに通ずる業界への愛着。
わざわざテキサスに街のロケセットまで建ててみんなで滞在して撮ってるようだけど、なんの変哲もない草っ原としか思えない場所が多い(それも、モニュメントバレーの景観に「テキサス」って字幕出したジョンフォードを代表とする往年の西部劇への反発として、当時同時代の西部劇があえて描写しえた新しいリアリティといえる空気感であるが、アジア映画がアジア人主演でやってしまうと、「予算ケチってそのへんの草むらで撮ったシーンが多そうだな」みたいになる……)。