小津安二郎監督のダークサイドですな。
京都を穏やかに映すいつもの小津調と思って観ていたら、思いっきりヘヴィなストーリー展開に。
何より観てる人をドン引きさせるのは山村聰の田中絹代への連発ビンタ!
田中絹代は【風の中の雌鶏】でも夫にDVされる役だったが、耐え忍ぶ姿が画になるからなんでしょうかね?
この頃の田中絹代はアメリカ渡航から帰ってきて投げキッスをした振る舞いがマスコミの反発を買い、叩きに叩かれていた時代だったそうで、高峰秀子の自伝エッセイ「わたしの渡世日記」によれば田中絹代は高峰秀子に自殺を仄めかすくらい思い詰めていたそうだから、重々しいこの役柄にそれが表れていますね。
高峰秀子は小津安二郎監督を崇拝していたそうだが、子役時代を除けば小津映画への出演は実質この一本だけで、恐らくは想像ですが、彼女の愛らしい外見とは真逆に内面は相当シニカルな性格なことはそのエッセイなどを読めば分かることで、小津監督もそれを見抜いたのではないかと。
だからこうゆうおてんば娘役を自分の映画で割り振るよりも、大人の役を演じられる女優になることを他の監督、例えば木下惠介監督や成瀬巳喜男監督に託したのでは……勝手な憶測ですが、そんな風にも見えてくるのです。
ボクは小津映画の軽やかさが好きなので、このダークな作品はあまり好きにはなれません。
しかし当時はトップの男優女優たちが名コック小津に調理されて逸品料理になる様は観ておいて損はないのではないでしょうか?