信州の農村で教鞭を執っている女性教諭が、都会で発生している連続婦女殺人事件の犯人が、自分の夫であることを察知する。武田泰淳の同名小説を映像化している、ピカレスク・ロマン。
偽善・寵愛といったワードを、憎悪へと脳内変換させてしまう男(佐藤慶)が、本能の赴くままに暴走行為を働いていく。「世知辛い世の中からの脱却=死」を暗示しており、生と死のシーソーゲームの原動力として、性が描かれている。
閉鎖的な村社会に道義をもたらそうとする女性教諭(小山明子)、無意識的に男を翻弄してしまう若い村娘(川口小枝)、村の労働者たちを統率する頭分(戸浦六宏)。この三人が「世渡りするための偽善的行為」を繰り広げていく。
とんでもない会話ばかりしているのに、周囲の人間たちが無反応状態になる、いわゆる「エキストラのカキワリ現象」がノイズになってしまうが、人生を模索するアウトサイダーの物語に金字塔を打ち立てた作品であることは確か。