パイルD3

ペーパー・ムーンのパイルD3のレビュー・感想・評価

ペーパー・ムーン(1973年製作の映画)
5.0
『コット、はじまりの夏』は、いろんな大人たちばかりが出てくる中に少女がいるという見せ方が見事でしたが、この構図で思い出したのが『ペーパームーン』。

ノスタルジックな映画が流行っていた70年代当時に、時代色を醸成するテクニックとしてあえてモノクロで撮られた作品。これがよかった!

ジャズのスタンダードナンバー♪It's only a papermoonからとられたタイトルは、もしもあなたが信じるなら、ただの紙のお月様でもそれはホンモノのお月様になるでしょう…といった夢見心地の歌ながら、この冒頭の歌詞の中にはストーリーの大事な部分が織り込まれている。

1930年代、まだ禁酒法が続いていた頃のアメリカ中西部、嘘八百並べて聖書のセールスで生計を立てる名前からして詐欺のようなペテン師モーゼ(ライアン・オニール)が、事故死した知合い女性の遺言で孤児になった娘アディ(テイタム・オニール)を、親戚の家まで届けるよう頼まれる。

あちこちで頭脳プレーの詐欺をはたらきながら親戚の家を目指す多難な道中をタテ糸に、何となくアゴの形が似ていることから、実はこのふたり親子じゃないか?という疑惑がヨコ糸として絡んでくる。
本当の父娘が演じているだけに、親子疑惑の設定はひねりが効いている。

モーゼという男のセコいペテンの小賢しさもなかなかだが、孤児のアディはそれに輪をかけて目端がきく気の強い小生意気娘、タバコはふかすし、ラジオの政見放送に夢中というオッサン志向のスタイルも持っている。

更には、出てくる出てくる変な大人たちのオンパレード、男も女もクセモノばかり。
これらのちょっと面倒くさい大人連中と堂々と渡り合うテイタム・オニールの名演技は、何度も繰り返し観たくなるほど最高で、そして見るたびに新鮮なきらめきを感じる。

こんな笑える仕掛けだらけの脚本が素晴らしいし、アメリカ映画が得意とするロードムービーの良さが全編にあふれている。

一握りの哀愁と心地良さを残すストーリーから見えてくるのは、人と人のかけがえのない“連帯“であり、揺らぐ事のない“絆“の存在。

そして♪It's only a papermoonの、歌詞にもある“信じる心“である。

【何度も観てしまう作品】
誰でも思い出したように繰り返し何度も観る映画はあると思いますが、これは自分の中でも生涯ベストテンには必ず入る、ピーター・ボグダノヴィッチ監督が生み出してくれたホンモノの名品だと思います。

私は、小娘アディが立ち寄った雑貨屋で見せる落語の「時そば」のような釣り銭詐欺のくだりが最初一発で理解できなくて、チョロッと再見したことをきっかけに、永遠にリピートし続けることになりました。
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