アメリカにおける差別問題はかなり複雑です。印象に残るのは、主人公の解雇の原因が、エイズではなくあくまで仕事能力にあると主張する経営者の狡猾さ。つまり差別が悪いことであることは承知しており、それが世間に露見することを恐れている。
差別問題についてのポリティカル・コレクトネスはすでにアメリカに浸透していて、「差別してなにが悪い」なんて言う人間は今どきどこにもいない。でも差別感情というものは人間の内面にあるものだから、巧妙で頭のいい人間であれば、差別事象を巧妙に覆い隠したり、別の問題にすり替えようとするのですね。
ここがポイントで、現代における差別との戦いとは、無知な者を相手にする戦いではなく、巧妙でずる賢い者を相手にする戦いになっているということなんだと思います。
ふー、観ている人間に深く物事を考えさせるだけでも、映画は傑作の条件を備えています。
差別に敏感なはずの黒人弁護士(デンゼル・ワシントン)がトム・ハンクスに対して差別感情を抱いたこと、またそれに気づいたことによる悔恨の意識。その部分にもこの映画の「リアル」を感じます。
1点だけこの映画に物足りなさを感じるとしたら、法廷ドラマとしての意外性の乏しさ。意外な証言によって勝負が逆転するといったスリルがあればよかったんですけど。
キャストではトム・ハンクスの恋人が若き日のアントニオ・バンデラスというのがなんとも味わい深い。