Punisher田中

レイジング・ブルのPunisher田中のレビュー・感想・評価

レイジング・ブル(1980年製作の映画)
3.9
拳一つで成り上がるシンデレラストーリーではなく、階段を一気に転げ落ちる墜落の物語。

最近は過去の名作を鑑賞しようという思いで映画を選んでいるが、何故かどれもロバート・デ・ニーロが主演を張っていてビックリする...この時代80年代〜90年代はこの俳優の黄金期だったのだろうなぁ、スゲェ...しかしほとんどが栄枯盛衰を描いたものという偏り具合もまた凄い。
今作もロバート・デ・ニーロが主演の作品だが、成功から転落していく墜落の物語。
白黒でいながら画面が重ったるくなく、軽快さを感じるグレー。
色味がすっきりしているからか、何故か脳内で思い返した際にあまり白黒の印象が少なく、色が入った状態で鑑賞の記憶がリフレインされる気がする。(これは僕だけかもしれない)
自分を見ない、他者を物の様に扱う、人間性がかけた人間の行き着く先を酷く惨めに物語っている。
決して強いだけじゃ、この世の中では生き残ることができないことをその時代の世間に問いかけている様だった。
当時はもしかしたら大体がハッピーエンド、シンデレラストーリーの作品が蔓延った中で観衆の頬にパンチを放つ一作だったのでは。
教養や想像力の大切さを痛感する。

簡単にいえば反面教師作品で、ボクシング作品でもあるのに大してボクシングシーンは少ない。
なんなら試合の終盤をいきなり映し出すくらいに取り上げ方が地味。
しかしそれでも、ボクシングシーンがすごく良い、白黒だから綺麗に描き出せる会場の熱気と身体から溢れ出る湯気は神秘的で美しい。
主人公のジェイク・ラモッタが乱打によってダウンするシーンが驚異的な神々しさを放っていた、あの瞬間は自分の世界の時間が止まったようにも感じたし、事実ラモッタの世界はそこで止まったように思う。
話の面白さもそうだが、撮影が神がかっているので是非注目してもらいたい。