このレビューはネタバレを含みます
あまりにも残酷な末路だからだろう、松子自身を時系列に従って長々と描写することはない。松子の姿は、回想の位置に置かれて、彼女に関わった、「死後もなお、松子を覚えている人々」によって、ぐるりと、広い視点で語られる。
彼女のエゴに満ちた適当な庇い立てでも、一人のヤクザに愛を幻視させることが出来た。不器用な愚か者でしかない彼女を愛しく思って、死してなお想い続ける親友も残った。彼女の自己愛でしかない盲信が生んだ熱意でも、彼女の手に美容師としてのスキルを宿らせた。愚かな松子が自己愛だけを生きたその道筋にも、世界は行為だけを受け取って、かすかな、けれど確かなその足跡を刻む。
その足跡を、誰が馬鹿にすることができようか。松子の末路は、自業自得である。鑑賞後に残る後味の悪さは、間違いなく、在るだけの他者としての、松子への哀悼である。