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血煙高田の馬場のzhenli13のレビュー・感想・評価

血煙高田の馬場(1937年製作の映画)
4.4
今日はマキノ雅弘没後30年とのことで観た。すごすぎて涙出た。57分があっという間に終わる。
阪妻の韋駄天ぶりを捉える横移動連続ショットと18人斬りの殺陣と群衆のシーンがやはりすごすぎるんだが、そこに至る裏付けをつくる脚本の良さがある。
破れ障子の長屋を訪ねて説諭する叔父が帰ったあとに、その台詞をリフレインしてひとり演じる阪妻の安兵衛。叔父の前では黙って頭を垂れるばかりであった彼は、無頼にあっても無頼の心にはなるなと述べた叔父の言葉を繰り返し、自分でハイと応える。外から覗きみる長屋衆の涙を誘う。そういう前提がクライマックスに生きてくる。
「ぴかりっと光ったあいつは何でえ。ははぁ、ありゃあ星だ」「一番星、消えたぁ」の台詞も好い。

阪妻が長屋から走り出すシーンからの高揚感がすさまじい。「兄弟分の安さんが、勝ってくるぞと勇ましく」と講談七五調の志村喬の台詞に続き、阪妻の横移動ショット、高田馬場の決闘に臨む叔父、わっしょいわっしょいと阪妻を追う志村喬らの一群。これらがすべて同じ方向性を保ち、映画の流れとスピードを妨げることがない。もうここからは怒涛のクライマックスで泣いた。劇伴のオーケストラも確実に盛り上げる。
尻端折りの襷がけに鉢巻、懐に叔父からの文をぶら下げた阪妻の安兵衛は常に踵を浮かせ、腰を落としたガニ股でちょこちょこさらりさらりと前後分かたず斬っていく。当時の人の、肚にしっかり軸がある身体から繰り広げられる殺陣は見ていて本当に惚れぼれする。こういう殺陣ができる役者はもういないのだろう。
ほとんどカットを割らないカメラの動線もすごいし、何より群衆!エキストラはじめ脇役の溢れかえるエネルギーをどう演出したんだろう。そういう演出ができる監督もいまいるんだろうか。ブリューゲルが描いた人々くらい、それぞれが様々な動きで生きている。
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