蛸

ヒックとドラゴンの蛸のレビュー・感想・評価

ヒックとドラゴン(2010年製作の映画)
4.5
ドラゴンと敵対するヴァイキングたちの島を舞台にした少年ヒックの成長物語。

ヴァイキングたちの間ではドラゴンを殺すことが名誉と結びついている。そこでは誰もがドラゴンを殺して、名を上げようとする。
映画冒頭におけるヒックもその例外ではないが、群れから逸れたドラゴン(=トゥース)と友情を育むことで彼は変わっていく。

ヒックは共同体に、彼の父親に代表されている価値観(ドラゴンを殺すこと)とは異なる尺度を持ち込む。
彼は、マチズモに基づいた競争原理から距離を置いて新しい価値観(=ドラゴンとの共生)を提示するのだ。
自分の正しさを信じて、周囲とは異なる決断を下すヒックは誰よりも「男らしい」。

大まかな物語の枠組みは典型的な「父殺し」モノ。しかしこの映画はこの言葉が孕んでいる物騒なイメージからは程遠いところにある。
ヒックの下した決断は誰よりも優しいもので、だからこそとても尊い。

原型的な物語ではあるが、そのディテールの豊かさには特筆すべきものがある。
個性豊かなキャラクターたち。とても魅力的なヒロインの本筋への絡ませ方。ヒックとトゥースの交感の丁寧な描写。
そして何よりヒックがトゥースの背に乗る飛翔のシーンはことごとく素晴らしい。雄大なスコアと相まって否が応でも感動してしまう。
空を飛ぶという運動に、ドラゴンと人との融和、ヴァイキングのはぐれ者であるヒックの長所、ティースとヒックの友情、などのさまざまな要素が集約されている。

それはつまり脚本がとてつもなく巧みということで、あまりの展開の無駄のなさに恐ろしさすら覚えてしまった。欠点らしい欠点がほとんど見当たらない。
子供たちにこそ見てほしい映画だけど、普遍的な強度を持った作品。傑作。
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