櫻イミト

戦争と母性の櫻イミトのレビュー・感想・評価

戦争と母性(1933年製作の映画)
3.5
原題「Pilgrimage (巡礼)」。息子が戦死した母のロードムービー。フォード監督が「ドクター・ブル」(1933)と同年に制作。

第一次世界大戦時のアメリカの田舎。頑固な母ハンナは息子ジムと近所の娘メアリーの結婚が許せないばかりにジムの従軍届を提出し、彼はフランスで戦死する。10年後、いまだメアリーとジムの遺児に心を許さないハンナの元に、フランスに作られたジムの墓への巡礼旅行の話が持ち上がる。。。

序盤は田舎が舞台、中盤以降がロードムービーとなる二部構成。序盤は演出・映像共に完璧な出来栄え。投石水面からのパンアップでメアリー登場は鮮やか。見送り列車で母の顔を映さず花束手元のみで余韻を残すのも秀逸。しかし後半につれて展開が雑になり力技で収束していくのはフォード監督らしさ。本作の肝である母親の改心の過程に強引さが目立ち全体的には惜しい印象。墓の前での懺悔には既視感が先立ち感動は出来なかった。

個人的には、農家のおばちゃんたちの道中に散りばめられたペーソスはとても好み。旅の始まりに隣同士でパスポート写真を見せ合うところで掴まれた。フォード監督作にしては愛国主義が目立たないことも好印象で、庶民の人生を描いたささやかな良作と言える。
櫻イミト

櫻イミト