クリストフォルー

女殺し油地獄のクリストフォルーのレビュー・感想・評価

女殺し油地獄(1957年製作の映画)
4.3
ちょうど2年前の今ごろ、脚本家・橋本忍の映画特集で上映されたものを観た。
歌舞伎では女形の印象が強いが、当時まだ20代の中村扇雀(現・坂田藤十郎)が、ほぼ同年齢の河内屋与兵衛をリアルに体現して演じ上げ、また、宝塚退団後、川島雄三作品で名を上げた新珠三千代が、豊島屋の女房お吉を典型的な好人物として演じている。持ち前の艶っぽさはあっても、彼女が与兵衛との間に色恋など挟まる余地がない人物だからこそ、終盤の悲劇性が際立つのであって、後継作品に見られるような余計な脚色は無用なのだ。
さらに、実父・中村鴈治郎が義理の父・徳兵衛を演じて、なさぬ仲の親の悲哀を滲ませ、名女優三好栄子が母の慈愛を無理なく呈している。加えて、本作では少しムッチリしている香川京子が、両親と兄の間で身も心も病んでしまう妹役を好演している。これが、のちの「赤ひげ」の役柄に繋がったのかも。
冒頭の華やかな野崎参りの場面から悲劇の終演まで、展開を知っていてもなお目が離せないのは、次々に現れる名優たちの懐かしさばかりではない。近松の世話物とはまさにこうあるべきという正当性と、今の時代に散見される若者の凶行と本作の与兵衛の姿が、見事に重なってしまうことの恐ろしさに気づかされるからだ。後世に残る名画とはこういうものを言うのだろう。
浪速の至宝、坂田藤十郎翁の御冥福を祈ります。
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