mare

穴のmareのレビュー・感想・評価

(1960年製作の映画)
4.5
非の打ち所がない脱獄映画の理想的な一本に間違いはないが、実は脱獄映画に見せかけた一人の侵入者の映画として「テオレマ」を彷彿とさせた。ふとどこかのタイミングでガスパールの存在に異様な興味を惹きつけられることになる。穴が貫通するまで些細なアクシデント、思惑や疑念、当然ながら物音の立て方一つまで予断を許さない緊迫感。一本道のストーリーの至る所に破綻の可能性がちらつく異常なスリル、何気ない行動の一つ一つがすべて脱獄の布石へと繋がり、大胆かつ用意周到なプロフェッショナルな手口に息を呑む美しさすらある。別室から物を受け渡すシーンや歯ブラシに鏡を取り付けたり思いがけないアイデアが次々に映される興奮はもちろん、撮影も非常に優れさまざまな手法でこちらの目を離す暇を与えない。穴を開け床が粉々になるまでの長回しやアクションのきっかけとなる手元のアップ、命懸けで一つの目的に向かう男たちの狂気にも似た執念が切迫感とない混ぜになりながら克明に記録されていく。これは芸術作品を目にした後の誇り高い余韻だ。
mare

mare