半兵衛

無謀な瞬間の半兵衛のレビュー・感想・評価

無謀な瞬間(1949年製作の映画)
4.0
夫が出張のため家を切り盛りする主婦のジョーン・ベネットが、殺人事件に巻き込まれた娘を守るため奔走するというウーマン・ノワール。主人公の主婦がサングラスを掛けてタバコをよく吸っていて考えるより前にズンズン行動していることが女性としてのノワールを象徴しており、彼女を恐喝するジェームズ・メイソンの方が穏和な性格にされている。また途中で脅している側のメイソンが彼女に惚れてグループを裏切って彼女を手助けするという展開もハードボイルドの定型(敵の情婦が主人公に惚れて裏切るというパターン)をアレンジしつつもきちんとなぞっていて興味深い。

中流家庭の家の部屋やよく家庭にある道具をことごとくサスペンスのディテールとして活用するオフュルス監督の演出術が素晴らしく、陰影と光を巧妙に使った映像も緊張感を大いに煽る。事件に関係する娘と母が部屋でそのことを密かに会話する場面の、一見すると普通の家庭の描写なのにきちんとノワールらしい緊迫した空間に変化させる様はもはやマジック。

夫が不在のため大金を引き出すことが出来ないことで、恐喝するグループと主人公の着地点が予想できなくなりグルーヴ感が物語に生まれ最後まで目が離せなく演出も見事。

ただその割には後半そうしたトラブルが盛り上がる流れも直前で解決したり止まったりするので、今一つ興奮しないのも事実。あと肝心の娘が途中から空気になったり、いくらなんでも主人公に都合よく解決され過ぎだろというラストも若干がっかり。

それでもオフュルスらしい流麗で洒落た演出とサスペンスチックな語り口で最後まで見れてしまう、あと役者の芝居と移動するカメラの息があっているので躍動感の心地よさは感じても長廻し特有の力推しがないのが凄い。

主人公があまりにもタバコをスパスパ吸っているので心配するメイソンがフィルターつきのタバコを買って彼女に渡すのがほほえましいけれど、これもハードボイルドにおける男女の立場の逆転化と言えるのかも。

夫との電話のやりとりで事件が無かったことにされていくラストがクールな余韻を残す。
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