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無謀な瞬間のzhenli13のレビュー・感想・評価

無謀な瞬間(1949年製作の映画)
4.4
こ、これは…オフュルスやっぱりすごいわ…最後の最後でまたうわあぁ〜ってなる(語彙)またこの尺の短さが素晴らしい。

ワンオペ主婦が主人公のノワールというプロットからして興味深いがまったく一筋縄ではない。主婦、妻という女性の立ち位置についても迫っている。脅迫に来た詐欺師のジェームス・メイソンが主婦ジョーン・ベネットに惹かれ、いつの間にか彼女を守っている。
ベネットは夫が単身赴任でワンオペ(使用人はいるけど舅は能天気だし精神的にワンオペ)のため、何もかも自分で解決しないといけないと思っている。海辺の家はその寄る方なさを表す。娘がベネットに反発して付き合う男が事故で死に、娘が殺したと思い込んで男の死体をひとりで運んでボート操縦して沈めたりする。しかし自分の裁量で自由に出来るものが何もないとも述べ、メイソンから「まるで囚人だ」と言われる。夫は電話でしか登場せず声すら無いためその性格を窺い知ることはできないが、家族よりも仕事を優先していることはわかる。
本当にベネットには何の裁量も無く自由が無いのだろうか。彼女は誰にも頼れないと思っているが使用人も彼女の事情を呑み込んで助けてくれてるし、なによりジェームス・メイソンの献身よ…
彼女自身がすべてを頑なに決め込むことにより、事態が深刻化していったようにも見える。しかも彼女は最後まで夫に本当のことを隠し続けることになる。最も心を開けない相手が夫。

母と17歳の娘が同じ髪型で、ジョーン・ベネットが母親役にしてはかなり若いので時々どちらか区別がつかない。先日観た『CURE』もそうだったが、同じ髪型というのは何かしらの同化が暗示される。娘が母親の忠告を無視して付き合っていた男に騙され見限ったことは、母であるベネットからしたら実は我が意を得たりではある。事件後の娘はみるみる存在感を失い、母娘にとってのカタルシスは無い。

流麗なカメラ動線が相変わらず素晴らしくて見惚れる。ベネットが上るにしたがいカメラも階段をゆったりと上る。夜になって照らされた階段の柵の影が聳え立つさまは表現主義的な美しさ。揺れる電灯が印象的なボート小屋での乱闘シーンや家を囲む鬱蒼とした木立の陰影は、立体的に不穏さを醸している。
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