三樹夫

レッド・ドラゴンの三樹夫のレビュー・感想・評価

レッド・ドラゴン(2002年製作の映画)
3.6
『羊たちの沈黙』の前日譚。原作小説が発売されたのも『羊たちの沈黙』より前で、物語の時系列そして原作の発売順共に『レッド・ドラゴン』→『羊たちの沈黙』→『ハンニバル』となる。原作は『羊たちの沈黙』よりも評判が良かったりする。話は子供死体の目に鏡を埋め込んで並べ母親を犯し殺すあたおか殺人鬼が現れ、グレアムは過去自分が捕まえたレクターに助言をもらい捜査を行う。

監督が、代表作が『ラッシュアワー』の典型的な職人監督ということもあり(しかも数名の役者からセクハラ告発されている)、映画の内容はTHE職人監督といった出来になっている。作風的には映画『羊たちの沈黙』への原点回帰であるが、画作りは完全に負けている。画力と役者の演技で魅せることに自信がなかったのか、レクターとグレアムのやり取りのシーンでもわりかしすぐカット割るとを緊迫感は薄い。『羊たちの沈黙』はフィックスの多用に顔のどアップとあまりカットを割らない画作りでどっしりした重みのある撮影をして雰囲気を作っていたが、この映画は普通の映画の撮り方をしており、手堅く及第点を取りにいく職人監督の作品という印象を持つ。

この映画を引っ張っているのは噛みつき魔のミスター・Dで、殺人スライドショーや火だるま車椅子などで楽しませてくれるあたおか角刈り殺人鬼だ。バッファロー・ビル同様、変に殺人哲学を持っている点がよりあたおか度が増している。過去の「チンチンちょん切るよ」という祖母からの虐待と自身の顔へのコンプレックスから、レッド・ドラゴンへの変身願望を持っている。レッド・ドラゴンという人間を超越した完成された何かへの変身を求め筋トレもするし、背中にどデカい入れ墨入れるし、『巨大な赤い龍と太陽を着た女』の絵を食べてレッド・ドラゴンを自分の中に取り込もうとする。見られるのが怖いため視覚障碍者のリーバ・マクレーンとしか付き合えない。

ミスター・Dの出ているシーンはボルテージが上がるがそれ以外は平凡な映画だ。レクターは演奏が下手という理由でフルートの演奏者殺すし、『羊たちの沈黙』では逃亡のため救急隊員殺してるしで、ただのサイコクソジジイでしかないと思うが、これほど神格化されている殺人鬼もいないだろう。前述のように今作では画作りが微妙で、そのため威厳に欠ける印象があり、レクターはただの出し惜しみアドバイスおじさんでしかなかった。
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