かーくんとしょー

レインマンのかーくんとしょーのネタバレレビュー・内容・結末

レインマン(1988年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

DVDを購入して何度も鑑賞している好きな作品。
トム・クルーズとダスティン・ホフマンのダブル主演。

トム・クルーズ作品だからといって侮るなかれ、本作は娯楽作品ではなく映画史に残る立派な芸術作品だ。
それ故、ただ楽しい映画を観たい人には不向きだし、また頻繁に見返したくなるタイプの映画とも言えないだろう。

ストーリーは以下のとおり。
疎遠になっていた父の葬儀に出席したチャーリー(以下、弟)は遺言により遺産を手にできず、見知らぬ誰かにその遺産が流れることを知る。その誰かを探していたところ、サヴァン症候群の兄・レイモンドの存在が判明。弟は兄を誘拐同然で病院から連れ出す。
病院からロサンゼルスへ戻る道中はまさにロードムービー。すれ違いや分かり合えなさに苛立ちながらも、断片断片で弟は兄がいた頃の記憶・情報を取り戻していくとともに、兄への兄弟愛が芽生えていく。母も幼くして亡くした弟にとって、これは生まれて初めて抱く家族愛でもあった。
ロスに着くと、兄の親権を争う裁判の前段階として、二人は第三者の医師と面談をする。弟は兄の親権を得るのが難しいことは理解しており裁判には至らず、兄を元の病院に戻すために見送る。

初めのうちは、障がいのある兄が思い通りにならないことに苛立つ弟。
それがひたすら続く前半は気分が悪くなってくるのは否めず、本作を苦手という人は大抵ここが原因。
トム・クルーズはこの手の頭に血の上りやすい若者を演じさせたら良くも悪くもピッタリすぎるんだよ……。

だがラスベガスあたりから、弟の苛立ちは障がいのある兄に対してではなく、それを受け入れ(られ)ない世界に対して向けられていく。
ラスベガスのホテルで弟が兄を抱きしめようとして拒否された時、弟は大きく動揺する。それは数日前まで抱いていた怒りでもなければ、兄が発作を起こした時に抱いたような戸惑いでもなく、ただただ悲しいということ。やり切れなさによるものだ。
(注意して見てほしいのは、このラスベガスでダンスの練習をして以降、兄は不思議と触れられることを嫌がらなくなっていく。)

このラスベガス以降は、どこを取っても名シーンの連続。
エレベーターでのシーンはドキドキするし(現実では犯罪だが)、兄がついに車を運転するシーンは鑑賞者も一緒に嬉しくなってしまう。
そして、弟が管財人に対して初めて素直に吐露する感情--「どうしてもわかんないのは、なぜ〔父も管財人も他の皆も〕兄貴のことを教えてくれなかっただ(中略)俺がレイモンドを兄貴って呼べたのは、たった六日間だけだ」。
続いて、ホットケーキ店での兄弟らしい無邪気なやりとり、そして第三者医師との面談後に弟から兄に語られる無垢で純粋な兄弟愛の告白、兄弟の別れ。
これらが時折挿入されるBGMの切ない調べと相俟って、涙腺を静かに刺激し続ける。

この映画の一つの見方としては、弟が兄への兄弟愛に目覚め、人間的・精神的に成熟していく過程を描いたというものが考えられる。
だがその他にもう一つ、弟世代とその上の世代との障がいに対する認識の違いというものが考えられるのではないかと私は思う。

第三者医師との面談時、この医師は兄に質問する。このままチャーリーと一緒にいたいか、病院に戻りたいか。
レイモンドの答えはどちらにもイエス。彼には、その二つの問いが同居し得ないことが理解できない。

第三者医師は、ひたすらこの質問を繰り返す。見方によっては、馬鹿にしているかのような相槌を打ちながら。
それに見兼ねた弟は言う。「もうこれ以上、兄貴を傷付けないでくれ」と。
ここで傷付けられているのは何か。兄は質問に答えているだけで心は傷付いてはいない。だが弟の目には、兄の自尊心や存在自体が傷付けられていると感じるのだ。

このような捉え方は、不思議なことに弟のガールフレンド・スザンナにも共通し、彼女はむしろ弟より前から一貫して兄に対して思いやりを持って対している。
それは特別扱いではなく、一個人として、一人の男として彼を扱う。(後者はやり過ぎるとよろしくないのだが、ここでは不問としよう。)
これは当時ではかなり先進的な考え方のはずで、もしかすると彼女がアメリカにおいて差別を受け得るイタリア系ということとも関係させているかもしれない。(スザンナは電話の最後に"Ciao!"と言っており、演じたヴァレリア・ゴリノもイタリア人だ。)

こうして観ると、弟の態度の変化と兄の障がいの不変から、鑑賞者は障がいに対する寄り添い方を否が応でも考えざるを得ない。
その答えはどこにも存在しないが、それについて真剣に考えを巡らすという初めの一歩に大きな意味があるはずだ。
この映画は決して楽しい話ではないが、真に観る価値のある映画であることは間違いない。

written by K.
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