鹿山

シンドラーのリストの鹿山のレビュー・感想・評価

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
4.6
鳥肌。映画初心者として、スティーヴン・スピルバーグ監督作品を半ば義務的に幾つか鑑賞してきたけれども、彼が巨匠たる所以をようやく理解しました。遺作かと見紛うほどの威厳に満ちているのに、その実、ヤヌス・カミンスキーとの邂逅により「第二の黄金期」に突入し、以後爆速で映画を撮りまくっている……というのは俄かに信じ難いね。

何処で切っても珠玉の完成度であるけれど、本作を傑作たらしめる慧眼は前半部にこそ詰まっている。映画に限らず、フィクションにおいて仮想敵にされがちな「経営者」。主人公の行動原理とされがちな「正義」「倫理」「矜持」。(マイ・オールタイム・ベスト映画『素晴らしき哉、人生!』なんてその典型だろう。)しかし、賢明な皆様は御周知のハズだ――「正義」etc...こそが戦争とファシズムを駆動させる最高のガソリンであると。主人公である実業家オスカー・シンドラーは、ビジネスにおいて手段を択ばない。当時のドイツ人にとっては、なんとも穢らわしい存在だったろう。しかしそれ故に、彼は被差別階級の人間に臆せず干渉できたのだ。

資本主義は、あらゆる「正義」「倫理」「矜持」を貫通し、すべてを貨幣価値に変える。非情なる市場原理は時として翻り、無意識的な反差別を齎す。この映画はモノクロ映像の古典的イメージを纏いつつも、個人/社会の正義を分離させることにより、映画史の大胆な反転を目論む。スティーヴン・スピルバーグ監督から捧げられた、ユダヤ人へのレクイエムにして、映画『素晴らしき哉、人生!』への返歌だ。
文字通り世界が色彩を取り戻す瞬間を、その地平線の果てしなき広大さを、生涯忘れることは無いだろう。
鹿山

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