Toineの感想文

私の中のもうひとりの私のToineの感想文のレビュー・感想・評価

私の中のもうひとりの私(1989年製作の映画)
3.9
【共感性とか客観視とか】
他の方のレビューにもありますがベルイマン監督へのオマージュを感じる演出があり興味深い作品でした。
完璧な人間なんていないとはいえ主人公みたいな人が身近に居たら一生忘れられない不快な思いをしそうで嫌だなと思いました。

主人公が傷付けた人達からの憎しみの籠もった言葉や目付きの演技が素晴らしく、略奪婚をする前から学生時代に同級生の好きな人を奪ったり(故意ではなかったようですが)若い頃から同じ事を繰り返していた事が汲み取れます。
傷付けた人を前にしても動揺はすれど微塵も罪悪感を感じていなかったのが恐ろしい。

略奪愛だけでなく家族に対しても無神経な事を言い放ち本人が気付かない間に距離を置かれていたりと、とにかく主人公は周囲の人達の気持ちを考えたり共感する能力が鈍感で、50歳を迎えた年に自分自身の評価と周りからの評価とのズレに気付かされます。

ミア・ファローさんの"冷たい頭脳だけでは周囲の人々は離れてゆく"って台詞が印象に残りました。
ただ、感情は間違いなく大切だけれど決して理論的なのが悪だとは思わなくて感情だけで生きている人を見ても個人的には美しいとは思えないので、理論と感情のバランスって大事だなと思います。

映画として第三者目線で観ているから冷静に考察できますが、己の事となると客観的に分析するのが難しいのでもしかしたら私自身も今後"そんなまさか"とショックを受ける経験をするかも知れません。嫌すぎる。

主人公と当時のウディ・アレンさんが同じ位の年齢だそうなので彼自身もこの作品の様な気付きがあったのかも知れません。
良いオチで無駄がなく80分に綺麗にまとめられた良作です。