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クリスティーンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

クリスティーン(1983年製作の映画)
3.9
 1957年デトロイト、自動車産業華やかな工場のラインに並ぶ煌びやかな車体、57年型プリマス・フューリーは深紅のように真っ赤な色味で工場員たちをも魅了するが、その魅惑の雰囲気は次々に作業員たちを不幸に至らしめる。それから20年が経過したカリフォルニア州ロックブリッジ。デニス(ジョン・ストックウェル)は早朝、いつものようにアーニー(キース・ゴードン)の家の前でクラクションを鳴らす。朝食を終えたアーニーよりも早く、ガレージの前に飛び出して来た母親は何やら小言を言いながら、デニスの運転する助手席に乗るアーニーを見送る。徹底的に冴えない高校生活、恋愛に疎く、いじめっ子を呼んでしまう典型的ないじめられっ子気質のアーニーは、今日も冴えない様子で放課後を浪費するが、道中で運命の車を目撃する。枯れ草の生えた荒涼とした土地、そこには薄汚れた真っ赤な色味の57年型プリマス・フューリーが不気味に眠っていた。その様子はうっかり目に留めた人間をメドゥーサのようにターゲットにする。だがその無言の警告にも気付かず、パッとしない日常を浪費するアーニーにはその車体が運命の女のように映ってしまう。

 『遊星からの物体X』の歴史的不入りで失意のどん底にあったジョン・カーペンターは、今作の映画化権を簡単に受け入れる。僅か5週間で撮られた今作はしかしながら、スティーブン・キング原作の映画としては出色の出来を誇る。運命の女に出会った男のように、少年は口煩い両親の庇護を躱しながら、ひたすら57年型プリマス・フューリーのリストアに命を懸ける。「クリスティーン」と名付けられた車はアーニーの男根のメタファーとして登場し、いじめられっ子を徐々に一丁前の男に仕立て上げる。その毒牙にかかったのがデニスもほの字のリー(アレクサンドラ・ポール)というのは何とも皮肉だが、クラスメートのバディ・レッパートン(ウィリアム・オストランダー)たちが瀕死の重傷を負わせたのはアーニーではなく、「クリスティーン」だったが、いつしか57年型プリマス・フューリーは人間顔負けの感情を持ち、アーニーの男根を強制的に回復させる。チェリー・レッドの真っ赤な塗装をした派手目の車に乗っかったアーニーは、露悪的な全ての事象に怒り狂い、危害を与える。それは唯一かけがえのない存在だったデニスや一途に愛したリーの命さえも奪いにかかるが、ショベルカーに阻まれる。その厳つさを盾にしたアーニーの哀れに打たれる。
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