櫻子の勝手にシネマ

羊たちの沈黙の櫻子の勝手にシネマのレビュー・感想・評価

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
5.0
本作はアカデミー賞主要5部門を全て受賞した稀有な作品だ。
アカデミー賞主要5部門を全て制覇した作品は『或る夜の出来事』『カッコーの巣の上で』『羊たちの沈黙』の3作品しかなく、とりわけサイコサスペンス、ホラー系の作品が作品賞を獲ったのは異例とも言える。

個人的には小学生の頃、この手の映画が大好きな母が頻繁に観ているところを横目で盗み見していた記憶がある。
ちゃんと観たのは高校生になってからだが、意外とあまり怖い印象はなかった。
逆に、クラリス(ジョディ・フォスター)の凛とした美しさや、レクター博士(アンソニー・ホプキンス)が描いた子羊を抱いたクラリスの絵、劇中で流れるバッハのゴルトベルク変奏曲の美しい旋律に夢中になった。
当時ピアノを習っていたこともあり、ゴルトベルク変奏曲が弾きたくて課題曲そっちのけで每日練習していたっけ(笑)

劇中では、レクター博士が移送先の檻の中で聴いているゴルトベルク変奏曲。
アリアは3/4拍子から始まり第30変奏が展開され全部で32曲、非常に優雅な曲で、アンナ・マクダーレーナ・バッハの音楽帳(1725)に収録されている。
この優雅で美しい曲をBGMに、監視員を残虐に殺害するシーンは見事であり、同時にとても恐ろしい。

本作で非常に印象の深いハンニバル・レクター博士なのだが、なんと2時間18分の上映時間のうち彼が出演した時間はわずか24分52秒らしい。
なんという存在感!
一見、本作はクラリスの物語のようだが、実はレクター博士を主人公とした小説の中の話なのだということがよくわかる。

『羊たちの沈黙』は、トマス・ハリスの小説を映画化したものだが、ハンニバル・レクターを主人公とする小説は『レッド・ドラゴン』(1981)が先だ。 
次に『羊たちの沈黙』(1988)、『ハンニバル』(1999)、『ハンニバル・ライジング』(2006)を執筆し全て映画化されている。
小説もとても面白いのでオススメだ。

余談だが、本作のメインビジュアルで引用されている有名な蛾のグラフィー。
蛾の背中には、画家のサルバドール・ダリが1951年に発表した『7人の女性の裸のドクロ』が描かれている。
よ〜く見ると女性が描かれているのがわかるので、興味のある方は是非ご確認を。