骨折り損

羊たちの沈黙の骨折り損のレビュー・感想・評価

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
4.1
痛みを食らって生きていけ。

人は誰しもトラウマを持っている。誰しも触れられたくない傷がある。それを受け入れて生きる事が、本当の意味で生きる事なのだとこの映画は言っているように感じた。

主人公のクラリスは、とても優秀なFBIの実習生だ。男性だらけの環境で、毎日のように晒される男性たちの視線にも耐えながら、彼女は人一倍努力をしてFBIへの道を進んでいる。

なぜ彼女がそこまで努力ができるのか。一見冷静に見える彼女のその原動力を、レクター博士はいとも簡単に見破いてしまう。

傷に蓋をしてきた彼女はもう冷静ではいられない。レクター博士はその傷口からじわじわと彼女を侵食していく。
そして狂い出す歯車。

傷を曝け出す事は、対人関係において必ずしも得ではない。クラリスもレクター博士に自身の過去を話すことによって冷静さを欠いてしまう。しかし、博士は彼女の闇を暴くことで、結果的に膿を出してあげたように感じる。

自分の闇を認識しながらも、隠して生きていく事は幸せから遠ざかっているのかもしれない。痛みは伴うが、闇と対峙する事で今まで見えなかった景色を見られる。そう思うと凶悪犯罪者レクターも、クラリスにとってはただの悪人ではなかったようだ。
骨折り損

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