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夜と霧の盆栽のレビュー・感想・評価

夜と霧(1955年製作の映画)
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色褪せない歴史の姿


 アラン・レネ監督が、世界で初めて「アウシュビッツ強制収容所」をドキュメントした作品。30分という短い尺の中で、1940年から1945年にあの場所で起きた"悲劇"と"真実"を隠すことなく、ナチスの残虐行為の全貌をカメラでとらえている。

 カラー(現代)で撮るアウシュビッツとモノクロ(戦時中)で撮るアウシュビッツ。今の姿は自然に囲まれた美しい場所だと受け入れざるを得ないことが何よりも複雑な心境である。
 何人もの死体を山積みにし、燃やしたり、ブルドーザーによって墓穴に埋められる。中には子供やげっそりと痩せ細った人までいる。ガス室での大量虐殺を終えての死体の姿まで映像として記録されており、作中ではこのような身の毛もよだつようなショッキング映像が山のように用意されている。

 収容所を統括していたナチスでさえ、自分たちの罪を否定する。誰もが口を揃えて「私には責任はない」と。では誰に責任があるのか、本作は問いかける。おそらく誰しもが思う結論は、特定の人物ではなく、組織全体が責任を負うべきだということだろう。いち証言者として観客が本作を目撃する構図になっているのだ。

 脚本を担当したジャン・ケイロールはホロコーストの生き残りであり、まさに他人事とは到底思えない恐怖の映像体験をアラン・レネ監督と共に作り上げている。そこにハンス・アイスラーの強烈な旋律が差し込まれることによって、後世に残していくべき記録映画としての完成系になっている。時の流れが一体どれほどの記憶を薄めてしまうのだろうか。

2024.6.14 初鑑賞
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