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ニュー・シネマ・パラダイス/3時間完全オリジナル版のtakaoriのレビュー・感想・評価

4.2
2024年72本目

「午前10時の映画祭」にて先日鑑賞した『海の上のピアニスト』と同じく、ジュゼッペ・トルナトーレ監督×エンニオ・モリコーネの劇伴のコンビであり、映画にさほど詳しくない人でも知っている、トルナトーレの代表作である。どちらも過ぎ去りし日の美しい思い出、ノスタルジーをテーマにした映画である点も同じだ。
多くの人が見ているのは2時間の「劇場公開版」であり、この「3時間完全版」の存在はあまり知られていない。かく言う私も『海の上のピアニスト』の上映をきっかけに最近知ったのだが、追加されたシーンこそが作品の根幹をなしていて、劇場公開版のノスタルジーにあふれた「感動」は物語の上辺に過ぎなかったことを知ってショックを受ける内容になっている。ラストシーンでトトがキスシーンだけを繋いだフィルムを見ながら流す涙が、劇場公開版とはまったく違った意味を持っており、「そういうことだったのか!」と驚かされる。
この完全版の追加シーンは、「余分なつけたし」と見る人も多く、その気持ちも分かる。若いころに劇場公開版を見たときの「感動」を否定され、自分自身のこの映画に対する美しいノスタルジーが汚されたように感じるからだろう。だが、まさにその「美しい思い出が自分勝手な幻想に過ぎなかった」ことを知る苦い感情こそが、完全版の根底にあるテーマなのだから、これは見事な映画だと言わざるを得ない。人生の深みを教えてくれる名作である。
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