狂王キシリトールヴィヒ2世

カスパー・ハウザーの謎の狂王キシリトールヴィヒ2世のレビュー・感想・評価

カスパー・ハウザーの謎(1974年製作の映画)
4.8
人はどこから来てどこへ向かうのか。そこに肉体が存在しているということが人間の誕生の証なのか社会性のなかで培われる人としての振る舞いが人を人たらしめているのか自己と外界を認知し物語を紡ぐことで人が定義されるのか。狭い部屋から放り出されたカスパーハウザーは歩くことを覚え話すことを覚え死ぬ。カスパーハウザーの科学的に完璧な調書であるこの映画はカスパーハウザーがどのように生まれなぜ世を去っていったのか明らかにしない。ただそこにあるという存在であったカスパーハウザーは名前を持ち思考し人との交わりのなかで生きるカスパーハウザーとして誕生すると同時に苦しみを抱える。人の思考は蜃気楼のようなもので目に見えている当たり前の上になりたつ。人間の思考活動営みは猫が二足歩行させられているのと同じようなものなのかもしれない。今ある自己というものがどこからやってきたのかは自分でさえわからない。理由を求めたり成果を求めたりすることは結局のところ空虚。だけどやっぱり謎にはある種のロマンがある。