ゆゆか

あなたになら言える秘密のことのゆゆかのレビュー・感想・評価

5.0
映画の解釈は個々人がすべきことで、逐一説明するのは野暮だとわかっているが、 私はこの作品がとても好きで、事情を読み取れず作品を勘違いしている方が多くいるのが惜しくてたまらない。
なので、いくつかの点について野暮だとわかっていても説明したい。 あくまで私が察せる範囲での私の見方による解釈だが、参考にしていただければ幸いである。
ネタバレに設定しないが、文章の折り畳みで見れないようにするのを配慮とさせてほしい。


①冒頭の退屈な時間
難聴であるとはいえ耳に更なる悪影響がありそうなのに耳当てをせずに仕事する
メニューが昼夜(もしかしたら毎日)同じの味気ない食事
使ってすぐ捨てる石鹸
テレビも本も見ない
かけても話をせず切る電話
4年も休暇をとらない
看護師として教育を受けたのに工場で勤務
すべてがハンナが自分を大事にせず生きていて、何か心の傷があることを察するためのヒント。


②泣きながら食べるごはん
冒頭で昼夜同じ味気ないメニューを食べていたのは、おそらく同じメニューじゃないものを食べても意味がないから。過去によって心因性の味覚障害があり、味覚がないかあるいは鈍くなっていると思われる。
そんなハンナが、ジョゼフの喋りに食欲をかきたてられ、すごく久しぶりに味を感じて「おいしい」と思えたので泣いている。
味覚の改善によるハンナの回復の示唆は、休暇後の仕事場でのランチでもわかる。


③ハンナが話した友だちの話
「これは友だちの話なんだけど…」と嘘をついて話すのは私たちにもある。
ハンナは自分自身の身に起こった出来事を、自分の体験として話すのが辛いあまりに、友だちの話として語ったのだろう。”友だち”は過去のハンナ自身と思われる。
ただ、その割には「本の感想を話し合った」等他者が存在してないと成り立たない説明もあるので、”友だち”は本当に存在して、途中までは本当にその友だちが経験したことなのかもしれない。
だがどちらにしろ、惨い目に遭わされたのは同じ。されたことも見聞きしたことも。


④ナレーションの少女
最後にハンナの息子を「私の弟たち」と言ってることから、ハンナの娘であるのは間違いない。
ジョゼフとの間にできたが亡くした子どもなのか?
赤と青の服(クロアチアの国旗カラー)、ハンナと過去について話していることから、冒頭の時点で既に亡くしていると思われる。
おそらく、兵士たちに惨い目に遭わされた結果できた子ども。
流産したのか中絶したのかはわからないが、死んだ娘にお話をしたり歌を歌ったり、ハンナは悼み続けている。かなりの深読みをするのならば、母親に銃で撃たせて殺させた娘、というハンナが語った母子が、ハンナとハンナが生んだ娘なのかもしれない。紛争は2年以上続いたので。
ずっとハンナの傍にいた幽霊なのか、ハンナが心に創り出したイマジナリーチャイルドなのかはわからない。だがラストで「もう二度と戻らない」と言っていることから、成仏あるいはハンナの孤独が少しは癒されてイマジナリーチャイルドが消えたと想像できる。


⑤邦題
邦題が原題を無視しているし合っていないとの意見が多いが、私はそうでもないと思っている。
『あなたになら言える秘密のこと』の、”あなた”はおそらくジョゼフではない。
確かにジョゼフにハンナは過去を話したが、ハンナは結局、もっと悲惨な記憶については話していないと、ジョゼフとカウンセラーの会話で読み取れるから。
”あなた”はおそらく、④の死んだ娘のこと。
惨い運命を同じくした存在であり、ある意味自分の心の傷そのものでもある娘にだけ、最も秘密にしたい過去を話せるということを示唆した、ダブルミーニングを意図してつけた邦題と思われる。
なんだかほんわかした雰囲気の伝わるこの邦題によって騙された鑑賞者があまりにも多いのはどうかと思うが、もしそれすらも企んでつけたのだとしたら、恐るべき策略家といえるのではないだろうか。
ゆゆか

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