Jimmy

クヒオ大佐のJimmyのレビュー・感想・評価

クヒオ大佐(2009年製作の映画)
4.5
一ツ橋ホールの試写会で鑑賞。

本作は、『第一部 血と砂と金』と『第二部 クヒオ大佐』の2部構成から成る。
第一部では、イラクのクウェート侵攻から端を発した湾岸戦争における日本国の苦しい状況が描かれる。
湾岸戦争【=血】では、多国籍軍によるイラク爆撃「砂漠の嵐作戦」【=砂】の際、日本は「米国からの協力要請」と「憲法第9条(戦争放棄)」との狭間で苦渋の決断の上で「多国籍軍への資金協力」【=金】を130億ドル行った。
この資金提供の米国とのやりとり描写が第二部に活きてくるのは、この時点で観客には判らない。

第二部は、クヒオ大佐なる似非米国軍人が次々と女性たちを騙す結婚詐欺師の物語である。
クヒオ大佐との結婚準備をしている弁当屋しのぶ(松雪泰子)から金を巻き上げる描写と並行して、初対面で「あなた子供嫌いでしょ」と一言残して立ち去るクヒオの事が段々と気になっていく博物館勤務員の春(満島ひかり)が結局は金を出してしまう過程も描かれる。
しかし、クヒオは常に完璧な詐欺師ではなく、しのぶの弟には正体を見破られて恐喝されたり、銀座ホステス(中村優子)を騙すつもりが逆に金をせびられたり、とコメディタッチの物語進行が面白い。

しかし、本作はこれら登場人物の駆け引きの面白さだけではなく、日本という国についても考えさせられる。
それが顕著に提示された場面は、博物館内で春を口説いているクヒオを見つけた館員が「ここは生き物の命を扱う場所なんだ。軍人が威張るな。子供達の事を考えたことはあるのか」とクヒオに問い詰めた直後、クヒオは「その子供の命を守るのが戦争でしょう!戦争が良いか悪いか、そんなの悪いに決まっている!でもそれで済まないから我々(=米国軍人)が居るんだ!自分の国を自分で守ることのできない日本人に何がわかるんだ!」と叫んで、「日本人!」と指差す。
この場面は、湾岸戦争当時、「日本は金は出すけれど参戦しない姿勢」を非難された事実をなぞっているようで、風刺的かつ非常に痛烈である。
これは米国軍人に扮したクヒオに言わせた点で、あたかも米国から日本に言われたような印象を受ける。
また、本作の「第一部」で世界における日本の置かれた立場を描いたのは、この場面を活かすための布石であったから、とも感じられる見事な場面である。

なかなか面白い作品であった。
Jimmy

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