カタパルトスープレックス

人生劇場 飛車角のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

人生劇場 飛車角(1963年製作の映画)
4.6
たびたび映画化されている尾崎士郎の自伝小説『人生劇場』の中でも映画史に残るマイルストーン的な作品です。主演の鶴田浩二にとっても、助演の高倉健にとっても、東映にとっても。

自分の世代にとって東映といえば「東映まんがまつり」ですが、その前の世代にとって東映といえばヤクザ映画ですよね。その流れを作った決定的な作品が本作でした。これがなければ「網走番外地」シリーズも「仁義なき戦い」シリーズもない。たぶん北野武監督作品もない。それくらい重要な位置付けの作品です。

では、なぜ本作はそれほどまで重要な作品となり得たか?

原作の小説シリーズ全般の主人公は青成瓢吉ですが、本作の下敷きとなった『残侠編』では本編の主人公である飛車角がメインとなっています。そのため青成瓢吉は脇役の位置付けとして、飛車角(鶴田浩二)を前面に押し出しています。つまり、本作のキモは飛車角(鶴田浩二)のキャラクター造形となります。キャラクター造形で魅せる映画。

鶴田浩二は内田吐夢監督による本作のリメイク作品『人生劇場 飛車角と吉良常』(1968年)でも同じ役を演じています。内田吐夢監督の演出ではもっと感情が表に出る人間くさいキャラクター造形なのですが、本作では感情を押し殺したキャラクター造形となっています。「表情には見せず、言葉ではなく背中で語る」的な感じ。これが決定的にカッコいい。同じ原作で同じ俳優なのに、ここまで違うかと(内田吐夢版も悪くはないです)。

本作でのもう一人の重要人物が吉良常(月形龍之介)です。吉良常は原作シリーズでもずっと登場する重要キャラクター。自分にとって演じる月形龍之介って黒澤明監督『姿三四郎』の敵役のイメージが強いのですが、本作ではまるで別人のようにドッシリした演技。鶴田浩二演じる飛車角と共鳴するにはこれくらいの重みがないといけない。

本来主人公の青成瓢吉を演じるのはブレイク前の梅宮辰夫。「女泣かせ」のキャラクターが確立する前のフレッシュな演技。そして、なんと言っても高倉健。本作では重要な位置付けながらも脇役ですが、鶴田浩二の寡黙で重みのあるキャラクターに共鳴するように、高倉健の演技もドッシリ感がある。本作で高倉健の演技の方向性が見えてきたとも言われていますよね。