カラン

カルメンのカランのレビュー・感想・評価

カルメン(1983年製作の映画)
4.0
オペラやバレエはライブビデオ的な撮影というのは現場の記録でしかないと思う。とりわけ映像と音声が絡むと複雑な問題が発生する。デビット・ボウイのかの有名な『ジギー・スターダスト・アンド・ザ・スパイダース・フロム・ザ・マーズ〜ザ・モーション・ピクチャー』(1973)で、D・A・ペネベイカーはずいぶんと手の込んだ作戦を使っているのはこうしたことを意識しているからだ。Filmarksの説明には同録とあるが、まるでカメラと同期した同録のようだが、途中から切り替えるのである。

今どき映画館でニューヨークのオペラがかかったりもするので問題提起しておこう。Filmarksの方々のクラシックの素養はかなりのものなのでまったく話が通じないかもしれないが。オペラはミュージカルじゃないだろう。オペラの映画が歌ばかりってのもね。普通なんじゃないか。(^^)

私見だが、オペラとバレエは基本的に映像化するならば映画としてやったほうが良いのではないかと思う。例えば、サイモン・ラトルとベルリンフィルがモーツァルトの『魔笛』をやったライブ映像がBlu-rayや、UHDにまでなっているのだが、夜の女王役のソプラノ歌手にピンヒールを履かせて、舞台に作った森の草むらでアリアを歌わせるわけだ。あれは1番の見どころだが、歌手がふらふら不安定で足もとを気にしている。子役たちも動き回りながら歌をうまく歌えていない。しかし、こういう本末転倒な事態は、映画にするならば一応回避できる。

①フランチェスコ・ロージの本作『カルメン』と、②ジョセフ・ロージーの『ドン・ジョヴァンニ』(1979)、③ケネス・ブラナーの『魔笛』(2004)などは同じアプローチをとっている。つまり、ホールでのライブの現場を擬似ドキュメンタリー的に撮るのではなく、映画として別のアプローチを音楽が主体の作品にかけたものである。(上の①〜③と同列の試みに見えるのがイングマール・ベルイマンの『魔笛』(1974)だが、上記とはまた異なる試みが為されていると思われるので除外した。)
  

①ビゼー『カルメン』
監督 : フランチェスコ・ロージ
指揮:ロリン・マゼール
演奏:フランス国立管弦楽団、他

②モーツァルト『ドン・ジョバンニ』
監督 : ジョセフ・ロージー
指揮:ロリン・マゼール
演奏:パリ管弦楽団

③モーツァルト『魔笛』
監督 : ケネス・ブラナー
指揮:ジェームズ・コンロン
演奏:ヨーロッパ室内管弦楽団

①〜③では、音楽は別録を同期させ、映像では歌手は口パクである。だから音楽家でも演技に集中できるし、本来の見せ場である音楽の表現もうまくやれる。

この①〜③はオペラの映画化としてよくできている。ロリン・マゼールというのも最高だという話は聞いたことがない。オーディオやクラシックの愛好家でフランスのオケが好きだという人もあまり知らないが、悪くないと思う。②に関してはフルトヴェングラーとウィーンフィルの有名な演奏があるが、②の方が圧倒的に楽しい。

とはいえ、音質は時代の問題もあるが、映像と絡むとやはり劣化する。オランダのロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団というのは世界トップのオケだが、自前の録音チームも世界最高レベルである。ホールにマイクをぶら下げるわけだが、有線で屋根裏の機材と繋がっている。演奏と録音をダイレクトに繋げて、余計な編集をしない鮮度抜群のDSDでソフト化するというのが彼らの売りだ。

一方で、素晴らしい音楽ソフトが十分に揃っている。しかし他方で、彼らのライブの映像はDVD/Blu-rayになるのだが、映画の音響などとはレベルの違う最上級の機材を使う彼らでさえDSDのSACDと映像付きのBlu-rayでは音質に差が出る。したがって、音楽ならば最終的には音声ファイルのみのものが望ましい。それに気付いてからは、ストラビンスキーの3大バレエの映像ソフトを買うことはなくなった。しかし、オペラに関してはどうもまだ割り切れない。バレエでもミサ曲でも映像はいらないが、オペラはどうも。慣れの問題だろうか。

  

今更だが、①の本作は『シシリーの黒い霧』のフランチェスコ・ロージが監督したもので、おそらく②のジョセフ・ロージーと同じ企画なのだと思われる。製作会社は両方ともゴーモンで、指揮者がロリン・マゼールであるし、映像化へのアプローチが非常に似ている。②よりもアクションは全般的に多く、特にカルメン役はオペラ歌手の範疇を完全に超えた演技を見せる。上記した映画化の恩恵がポテンシャルを引き出したのだろう。スペインロケの撮影も見応えがある。浅黒い肌の女たちが多数で躍動するシーンが何度かある。そこから、最後の横たわる艶やかなカルメンの死体とそれを囲んだ2人の女たちの真上からのショットをスチルにしたラストはかなり決まってた。

Blu-rayで視聴したが、音質はなかなか。マルチチャンネルサラウンドであるので貴重かも。クラシックソフトの中では普通よりも大目にサラウンドに割り当てている。②のモーツァルトはステレオ。

画質はけっこう立派。
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