SANKOU

ブレードランナーのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

ブレードランナー(1982年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

オリジナル劇場公開版を観賞。舞台は2019年のロサンゼルスで、今ではもう過去になってしまったが、設定ではレプリカントという人間そっくりのアンドロイドが存在する近未来になっている。
飛行する車や夜空を彩るネオンなど一見ハイテクな世界に思われるが、地上では様々な人種が入り乱れる無法地帯と化していて、建物もほとんどが廃墟のような有り様だ。
至るところに購買意欲をそそるための広告が溢れており、常に雨が降り続ける不健康な街。実際の2019年は車も空を飛ばないし、アンドロイドもまだ人間並の知能は持っていないが、それでもこの映画の世界観よりは随分マシだと思った。しかし未来への警鐘は常に鳴り続けている。
そしてAIの反乱という現実にも起こり得るかもしれない問題がこの映画では描かれている。
タイレル社が作り出した宇宙基地で働くレプリカントは反乱を起こし、そのうちの四人がロサンゼルスの街へ逃れてきた。
元刑事で元ブレードランナーと呼ばれるレプリカント専門の殺し屋のデッカードは、逃げ出したレプリカントの始末を依頼される。
タイレル本社を訪れたデッカードは、レプリカントの生みの親であるタイレルと面会し、レイチェルという秘書を紹介される。
彼女も実はレプリカントだが、彼女自身はそれを知らない。
自分はひょっとしたらレプリカントかもしれないと疑いを抱くレイチェルは、デッカードの部屋を訪れるが、そこで自分しか知るはずのない彼女の記憶をデッカードが知っていることに驚く。
彼女に植え付けられたのは偽の記憶だった。実際にもし自分の記憶が植え付けられたものだと言われたら、そうではないことを証明するのはとても難しいことだと思う。
人間と同じように感情を持つレイチェルは、ただその事実に涙を流すしかない。
そして逃げ出したレプリカントたちも、自分たちの存在意義を知るために生みの親であるタイレルの元を目指す。
彼らには四年の寿命しか設定されていない。あまりにも短すぎる寿命だ。何とか延命の方法を探しだそうと、彼らは自分たちを作った研究者を一人ずつ当たっていき、タイレルの元へと近づこうとする。
人間の作り出したアンドロイドだが、レプリカントたちの個性はとても豊かで魅力的だ。
リーダー格であるロイと、娼婦の役割を与えられていたプリスの存在が際立っている。
身体能力ではレプリカントに敵わないデッカードは、彼らにボコボコにされるが最終的には銃を使って始末する。
女を背後から撃つのは気が引けると彼が語るように、彼の闘い方はフェアではない。
目の回りをまっ黒にメイクしたプリスが圧倒的な身体能力でデッカードを苦しめるシーン。一瞬の隙をついてデッカードはプリスの腹を撃ち抜くが、撃たれたプリスがじたばたと痙攣する姿はかなり衝撃的だ。
生みの親であるタイレルを殺してデッカードの元へ現れたロイの不敵な笑みが不気味だ。彼にはもう延命の手段は与えられない。
あくまでフェアな闘いを挑もうと、デッカードを恍惚な表情で追い詰めるロイ。廃墟での格闘シーンは相当にクレイジーだが、どこか哲学的な趣がある。
デッカードを恐怖のどん底に陥れるロイ。しかし彼らがずっと感じてきた恐怖はこんなものではないとロイは語る。
デッカードを殺そうと思えばいくらでも出来たはずのロイは、自分たちは普通の人が見られないような景色を見てきたことをデッカードに伝え、最終的に寿命を受け入れ死んでいく。
何故彼がデッカードを殺さなかったのかは謎のままだが、デッカードは命の尊さを知ったからではないかと考える。
逃げ出したレプリカントを全て始末したデッカードだが、実はレイチェルの始末の命令も受けていた。
しかしレイチェルに人間の女性に対するのと同じ恋心を抱いたデッカードは、彼女と共に逃げることを決意する。
感情をまだうまく表現できないレイチェルを誘導して、あなたが欲しいと言わせるデッカードの姿が印象的だ。
最後にはレイチェルははっきりとデッカードに愛していると伝える。
彼らがアパートから逃げ出すときに、床に落ちていたユニコーンの折り紙を拾うシーンも意味ありげだった。
ディレクターズカット版では削除されていたデッカードの独白は確かにいらないなと感じた。
あまり感情の起伏のないデッカードの方がよりアンドロイドに近いのではないかと思われたが、それが逆に人間らしいのかなとも思った。
哲学的で難解な作品だが、印象に残るシーンが多く、何度でも観たくなるような傑作だと思った。
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