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フェリーニのアマルコルドのあのレビュー・感想・評価

フェリーニのアマルコルド(1974年製作の映画)
5.0
綿毛の飛来と共に一年が始まる街、リミニの、とある一年を切り取った物語。この映画を観ると、イタリアの「土地」の磐石さに気づくと共に、羨ましく感じると思います。例えば舞台となる時代のイタリアはファシズムが一世を風靡していて、当然リミニの街にもその波が押し寄せていました。しかしリミニの人々は、綿毛が飛べば焚き火で冬を追い払い、来客(今作ではアメリカの客船レックス号)が来ればみんなで出迎えに行き、人が死ねばみんなで悲しみ、結婚式があればみんなで祝います。つまり、リミニの人々にとって、ファシズムなどの一時の風潮は、綿毛のように飛んでいってしまうもので、どんな状況下でも変わらない生活や人のつながりがあるのです。ここに、日本の地方にはないリミニの、ひいてはイタリアの地域性があるのではないでしょうか?

フェリーニ監督自身は、過酷な家庭環境に耐えかねてリミニを飛び出し、30年間全く帰らなかったようですが、映画の形を通して追憶するリミニの街、人、出来事はどれも生き生きしています。私も地方から出てきた身なので、監督と重なるところはありますが、何十年か経って地元に帰った時、そこにあの時の人はいるのか、出来事はあるのか、街はあるのかと言われれば、残念ながらないと思います。「アマルコルド(私は覚えている)」と言えるのは、「今」と地続きの「過去」があるからなのではないでしょうか。
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