メシと映画のK佐藤

カイジ 人生逆転ゲームのメシと映画のK佐藤のネタバレレビュー・内容・結末

カイジ 人生逆転ゲーム(2009年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

自分は原作未読でして、残念ながら映画と原作を比較することが出来ないことをご承知おき下さい。

さて、そんな原作未読の自分が観た実写版カイジ。
結論から申しますと面白かったです。
一クセも二クセもあって十二分にキャラクターが立っていた登場人物達、(このフレーズは余り好きではないのですが)人生の負け組カイジが、本作で描かれるゲームを運営する裏社会の一大組織「帝愛グループ」のナンバー2・利根川(演じるは香川照之さん。個人的に本作のMVP)を打ち負かすと云うカタルシス溢れるラスト等々。
面白い要素が沢山あるのですが、自分が何より特筆すべきだと思ったことは「ゲームの見せ方の巧さ」です。

本作でカイジが挑むゲームは「限定ジャンケン」、「鉄骨渡り」、そして利根川とサシで勝負する「Eカード」の3つ。
各々のルールは以下の通り。

「限定ジャンケン」
グー・チョキ・パー3種の絵柄のカードをそれぞれ4枚ずつ持ち、胸には3つの星型のバッチを付ける。
カードを使い普通のジャンケンのルールに従い、専用のボックスを挟み1対1で対峙。
カードをボックスの上に置き、「ジャンケン」の「ポン」で開く。
勝負がついたら、勝者が敗者のバッチを受け取り、自分の胸に貼る。
あいこの場合、バッチの移動はなし。
ゲームに使ったカードはボックスの投入口に破棄。
最終的にカードを全て使い果たし、バッチが3つ以上残っていれば勝ち。
制限時間は30分。
「鉄骨渡り」
地上250メートルに架けられた幅12センチの鉄骨を渡りきれば勝ち。
但し、手をついて渡れないように鉄骨には電流が流されている。
「Eカード」
10枚のカードを市民4枚と皇帝1枚、市民4枚と奴隷1枚に分け、皇帝側と奴隷側の2陣営に分かれて戦う。
相手に見えないようにカードを持ち、まず奴隷側がカードを1枚裏向きに出す。
それを見て皇帝側がカードを出し、お互いのカードを表向きにし、
勝ち負けを決める。
カードの優劣は皇帝>市民、市民=市民、市民>奴隷、奴隷>皇帝である。
勝負は3回。奴隷側が圧倒的に不利なゲームであるので、奴隷で勝った場合、賭けた金額の10倍の額が支払われる(故にカイジは全ての勝負を奴隷側で戦った)。
ちなみに、カードを出す時は必ずカードを見て出さなければならず、無作為に出すことは禁じられている。

以上のようにいたってシンプルなんですが、これにゲームプレイヤーのこと細かい心理描写を掛け合わせることによって、物凄く面白く仕上げているのです。
例えば、「鉄骨渡り」ならちょっとした風が吹くだけで、スタート地点にいた時に奮い立たせた勇気が瓦解してしまう脆い人間の精神、「Eカード」なら相手の手札の先読みを繰り返して行く内に思考の袋小路にはまってしまう人間の疑い深さ等々。
パンフレットのインタビューで香川さんも述べてますが、ただジャンケンをする、人が移動する、カードをめくると云うシンプルな作業が、ここまで面白くなってしまうのは凄いことだと思います。

信じる者がバカを見る世界観で、最後は信じることが勝利に繋がると云う逆説的な構成も面白かったポイント。
「限定ジャンケン」では狡猾なプレイヤー・船井を信じたが為に、バッチを奪われ、「戦場で棒立ちしていたところを刺されただけだ」と吐き捨てられたカイジが「Eカード」では利根川の優秀さ・頭のキレ具合を信じて、次に出す手札を過度に先読ませて勝利する過程は爽快でした。
余談ですが、「バトル・ロワイアル」では船井役の山本太郎さん演じるキャラクターを信じることで、生き残ることが出来た藤原さん演じる主人公が、本作では信じたが為にゲームで敗北してしまう展開は、何か皮肉めいていて可笑しかったですね。

本作で唯一残念だったことは、「限定ジャンケン」と「鉄骨渡り」の間でストーリー展開が止まってしまったことです。
「限定ジャンケン」で結果的に敗北してしまったカイジは、帝愛グループが建設を進める地下帝国の建設現場で強制的に働かされてしまい、しばらくはこの強制労働シーンが続くのですが、ここら辺は息詰まるゲームのシーンと比べると、どうしても動きが少なく退屈になってしまうんですよね。
原作に沿った内容なのかどうかは分かりませんが、この映画では強制労働シーンはバッサリ斬って立て続けにゲームだけを描いていれば、もっとテンポが良くなるのにな~と思いました。

まぁ気になったのはそれ位で、冒頭で述べたように原作未読の人間でも十分楽しむことが出来る娯楽作品となっていて、二時間ちょっとの上映時間があっという間に感じた1本でした。

追伸.特撮好きとしては、印象深い端役として村田充さんや、聡太郎さんが出演されていたのは嬉しかったです。