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怪異談 生きてゐる小平次のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

怪異談 生きてゐる小平次(1982年製作の映画)
3.3
『怪異談 生きてゐる小平次』1982 磯田事務所・ATG提携

懐かしいATGの1000万円映画。怪談映画の巨匠中川信夫のミニマムでシュールな怪異心理劇。

ATG(アート・シアター・ギルド)は大きい映画会社ではなかなか製作されない芸術性の高いテーマの映画を作り広めようと企画された会社。

初期は『尼僧ヨアンナ』などの海外作品の配給、後に監督や製作者と製作費1000万円を折半して低予算の映画を製作した。『1000万円映画』と呼ばれた。

その1000万映画にはこんな映画があった。

安部公房原作・勅使河原宏監督『おとし穴』
大島渚『絞死刑』『新宿泥棒日記』『儀式』
羽仁進『初恋・地獄編』
岡本喜八『肉弾』
篠田正浩『心中天網島』
実相寺昭雄『無常』
寺山修司『書を捨てよ街へ出よう』『田園に死す』
黒木和雄『竜馬暗殺』『祭りの準備』
長谷川和彦『青春の殺人者』
東陽一『サード』『もう頬杖はつかない』
増村保造『曽根崎心中』
神代辰巳『赫い髪の女』
鈴木清順『ツィゴイネルワイゼン』
井筒和幸『ガキ帝国』
大森一樹『ヒポクラテスたち』『風の歌を聴け』
根岸吉太郎『遠雷』
大林宣彦『転校生』
森田芳光『家族ゲーム』
伊丹十三『お葬式』
相米慎二『台風クラブ』

ATGは大手映画会社では通りにくい企画を生み出してたくさんの若手監督を育てた。

予算1000万円と言えば当時でも連続TVドラマの一本分だった。だから大規模なセットは組めないしエキストラを大量に準備したりもできない。

ロケが中心になるし時代設定が過去の場合は現在のものが映らないように撮影にも苦心と工夫が必要だ。

余分なものが映らないようにして少ない俳優で撮ると映像は無駄がない研ぎ澄まされたものになっていく。狙った意味ありげなカットなのか予算がない苦し紛れのカットなのか。『ツィゴイネルワイゼン』は低予算ゆえのミニマリズムがうまく作用して神秘的で美しい映画になった。

『生きてゐる小平次』は時代劇で怪談。中川信夫監督は低予算を障害とは捉えず自分に課せられた課題と捉えて登場する俳優も三人に絞って引き締まった心理劇を作った。

小平次(藤間文彦)、太九郎(石橋正次)、おちか(宮下順子)がラップバトルの様に小唄を繋げてお互いの関係を語る場面が面白い。リアルな時代劇ではなくて抽象性を帯びた心理劇なんですよという監督の目配せだ。

宮下順子さんは映画の最初の方では初々しい。かんざしの先をを石橋正次の首筋に当てて嫣然と笑う場面は恐ろしく美しい。

ラストの宮下順子さんは何年もの年月が過ぎた様な苦しい表情をしている。撮影期間はわずか1週間なのにこの変化。

幼馴染の3人。おちかは小平次が自分に思いを寄せているのを知っているが太九郎と夫婦になる。諦めきれない小平次は太九郎におちかを俺にくれと言い募る。

太九郎はしつこい小平次を船から突き落とす。小平次が浮かんでこない事を確かめて帰宅したら小平次が家に来ている。幽霊なのか死ななかったのかはっきりしない。

死んだはずの小平次に付き纏われるおちかと太九郎の道行。

殺したはずの小平次が姿を現すのは太九郎の良心の呵責なのかもしれない。

ラストシーン。流れる川のほとりに立つおちか。カメラアングルが傾いていて川が下から上に流れる様に見える。現実の科学法則が通用しない冥界なのか。観終わった後に反芻して色々考える楽しみがある映画だった。
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